第4話
「ご主人様っ、だめです……」
「ふふっ、何を言っているんだい?ほら、こんなにも……」
「……っ、見せないでください、恥ずかしいです……」
「大丈夫、心配しなくていいから……」
「……ん、ちゅっ……ぁっ……んぅ……」
「っん…………ふぅ、それじゃあいれるね?」
「……………………はい」
なんていう淫靡な出来事は起きない。
このゲームでは鬼畜な現実世界同様の好感度システムを乗り越えることで18禁の先へ突き進むことが出来るという噂もあるが、年齢=恋人いない年月の私には関係ない話だ。
それはともかくとして、では何故女の子を強引に宿に連れ込むような真似をしたのか。
それは宿屋がNPCのメイキングにおいて最も(私には)重要な施設であるからだ。
この『色んな子を育成するのだ!!』の世界において『宿屋』は単なる宿泊施設にとどまらない。
宿屋、その実態は多機能複合型の高性能施設なのだ。
まず受け付けは同じ人物が二十四時間体制でずっと働いているため、プレイヤーはいつでも利用が可能である。
部屋も謎の原理によって満室になることはなくプレイヤー何十万人だろうが一つの宿に泊まることができる。
そして部屋ではHP、MPの回復、リスポーン地点の更新、無限インベントリの利用など様々なことが出来る。
その中の部屋の機能の一つ、『NPCの詳細設定の変更』こそが宿屋に訪れた理由である。
ルナを作ったときにも本名ルナ・シャーロット・ブラウンという情報を詳細設定に書き込んでいたが、それと同様に詳細設定ではキャラにステータスでは語れない部分の設定を作り込むことができるのだ。
私の見ていた配信者は詳細設定でキャラにこんなときはガンガン攻める、守るなどの戦略を書き込んでキャラ毎にロールを定めたりしていたが、私は配信者が軽く性格を決める程度であまり重視していなかった面に活路を見出だしたという訳だ。
そういうことで宿屋の部屋に置かれたベッドに寝っ転がり、またもややってきたあの真っ白い謎の空間にてルナの設定を書きに書き込んだ。
その結果がこちらになる。
ーーーーーーーーーー
名称:ルナ
種族:人間(雌)
ステータス
HP52
MP76
STR36
INT64
VIT23
DEX56
AGI68
詳細設定:
本名ルナ・シャーロット・ブラウン
貴族であるブラウン家の長女として生を受けた。
父であるオリヴァー・ブラウンとその妻であるエイヴァ・ブラウンは結婚してから数年の間、子供に恵まれなかった。
貴族として跡継ぎを作ることは最も重要な事の一つである。そのためブラウン家ではオリヴァーに側室を設けることを提案しており、オリヴァー自身も検討していた。
しかしながら実際には実施されなかった。
というのも妻であるエイヴァの実家、国有数の大貴族であるモノルス家から圧力がかかったからである。
エイヴァとオリヴァーは貴族としては珍しく恋愛の末に結ばれた夫婦であった。
貴族社会における結婚は自身の家の勢力拡大のための手段であり自由な結婚など大抵の場合は許されることではないのだが、エイヴァはモノルス家の五女であり、かつ末娘であることから父親に溺愛されていたことから、他の力ある貴族と比べると見劣りするブラウン家の跡継ぎでもギリギリ結婚を許された経緯があった。
そして圧力がかかった理由は、政治的価値の比較的低い貴族相手とはいえ大貴族たるモノルス家の血筋を残せないとは何事か、と不快を買ったことが大きかった。
大々的に知られてはいないがエイヴァが夫に別の女が出来ることを嫌がり、父親にどうにかできないかと縋ったというのも理由としてあったのだが。
とにかくそんな波乱がありつつ、効果があるかもわからない薬や魔法を頼りながらも何とか子供を妊娠し産むことが出来た。
しかしながら産まれた子供、ルナは女だった。
跡継ぎは長男に就かせるのがセオリーである。
女に家を一時的に継がせることもあるが他の貴族に侮られることは確かである。
そのためこれまでの妊娠から出産までの苦労からもう子供を授かることは難しいかもしれないということも考えると、オリヴァーは焦り、そしてある決断をする。
それは、ルナを男性として育て上げることだった。
元々ブラウン家の女性は中性的な見た目の人が多く、モノルス家の女性がかなり女性らしい身体付きをしているのが不安だったが、成長したとしても何とか誤魔化せると判断したのだ。
そうしてルナを男性としての立ち振舞いや言葉遣い、趣味嗜好までしっかりと染め上げようとした。
しかし結局の所、それもルナが五歳になる頃に必要がなくなることとなる。
エイヴァに男児の妊娠が発覚したのだ。
ルナが産まれて五年、結婚からおよそ十年という時はオリヴァーに子供が出来た純粋な喜びを与えず、子供の性別の事しか頭に浮かばなかった。
オリヴァーは妊娠が分かると国の魔法使いにその子供の性別を調べてもらい、そこで男の子である可能性が極めて高いということが分かって初めて嬉しがった。
エイヴァも男の子を産めることでこの頃心が離れていっているように思われた夫と再び心を通わせることができ安心した。
ともあれ、望まれた子の妊娠の裏でルナの教育も長男が産まれることから必要がなくなるため、普通の貴族としての一般教育にシフトしていった。
それまでのルナの教師としては、まだ五歳とはいえルナには才能の片鱗が見えるためこのまま男として育てて跡継ぎ候補としても良いのではと提案していたが、オリヴァーとエイヴァどちらもルナに無理して男であることを押し付けていた罪悪感から辞めることを決定した。
しかし五年という短い期間とはいえ幼年期の教えは多少の影響を残した。
それが分かったのはルナに弟が産まれてから十一年、ルナが十六歳になった頃である。
この間の十一年は良くも悪くも普通の貴族としての生活がブラウン家で営まれた。
両親は優しく温かく、弟の成長を見守り可愛がり、何度か社交界に顔を出すこともあり、大人になっていくのを実感する今日この頃だった。
きっかけはルナに専属のメイドが付けられたことであった。
その子は、曰くオリヴァーの知り合いの娘さんで、病気で亡くなった彼女の両親がオリヴァーに宛てた手紙を持って訪れてきたのだという。
その手紙から事情を知ったオリヴァーは彼女をブラウン家に置くことにして、侍女を持っていなかったルナに付けたのだった。
名前はシャーロット。
歳はルナの三つ下で十三歳、整った顔立ちをしているが纏っている暗い雰囲気のせいでどこか地味に見えてしまうような子だった。
しかしその地味な印象とは裏腹にルナは彼女に惹かれるような感情を抱いた。
はじめその感情を同年代の友人を作りたかったからだと思っていたルナは(貴族として何人かの知り合いくらいはいたが毎日会って親しくするような友達は一人もいなかった)シャーロットに初対面からやたらめったらにしつこく話しかけた。
最初シャーロットはこれこそメイドというような真面目で慇懃な態度で主人であるルナに対応していた。
しかし、うんともすんともしないシャーロットにすらルナはなんだか嬉しくなるという無敵状態になっていたため、気にも止めずにシャーロットに話しかけ続けた。
ルナがシャーロットに話しかけ、シャーロットは必要なら答え、不必要なら黙秘を通すという、その状態は数ヶ月続いた。
そして永遠に続くかのように思えたこの情勢はシャーロットによって動かされ…………。
………………………
………………………
………………………
………………………
………………………
………………………
ーーーーーーーーーーー
なんというか、『最強の暗黒騎士アポカリプス』(レベル1)みたいな中二病患者と同じくらい、過剰設定を初期キャラに付けてしまった気がする。
最初の文から画面を十数秒全力スクロールして、ようやく最後まで辿り着けるくらいなのだから。
まぁ、付けてしまったのは仕方がない。
それに我ながらかなり良いバックグラウンドを設定できたと思う。
生まれから悲しい過去、そして現在までのつながり、更には彼女の性格、言動、またそれらが形成された原因となる細かなエピソードまで詰めれるだけ詰め込んだ。
今のルナならNPC設定詰め込みコンテストがあれば恐らく1位を取れることであろう。
それくらいは自信がある。
しかし、かなり時間がかかってしまったようだ。
UIを確認したらもうかなり遅い時間になっている。
ゲームを始めたのが昼過ぎで今はもう夕飯の時間を少し過ぎている。
それだけの時間をまさかキャラのモデリングと設定だけで使ってしまったのは自分でも怖くなる。
ともかく夕飯の時間が過ぎているからにはもうしばらくしたらお母さんが強制ログアウト(物理)を仕掛けにくるだろう。
それが成されるまでに一目でもルナに会わなければ。
そういうわけで設定変更を終了させ、真っ白空間に別れを告げる。
光によって視界は閉じられ感覚も失う。
そして数秒後、私は宿屋の部屋のベットで横になっていた
「……?」
おかしい。
何かがおかしい。
私はルナを連れてこの部屋に来て、設定変更の空間へ転送されるためにベットの上で横になった。
その時は普通に枕に頭をのせ、流石に寝るわけではないので布団を身体に被せはしなかったが、とにかくフカフカとはお世辞にも言えない固い枕に頭を載せていた。
そう、そのはずなのだ。
なのに、この後頭部に感じる、柔らかい感触は……
「あ、ご主人起きた?」
「…………んぎゃっ!!?」
ああああああ、全て理解った!!
こ、この、これは
「ははっ、なにその寝言。全然起きないから心配したよ?」
頭に感じるこれはルナの、超絶美少女イケメンの保有する超低反発どエロスティック太もも!!
それに部屋の天井に見えていた謎の山脈は、鎧を脱いだことで解放され、肌着一枚でしか守られていないおかげでぷるんぷるんのたわわなおっぺぇ!!
そして山脈の向こうから覗かせるその顔は……
「なあに?そんなにボクの顔見つめて。また見惚れちゃったの?」
国宝級イケメン美少女の顔!!!!!!!!
グハバァッっっ!!??!!????!?
尊死…………
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