第3話
「あれ?」
転送されたと思ったら、また真っ白謎空間にいた。
さっきまでのキャラ作成空間と同じ、地平線どころか地面も無いただひたすら真っ白な空間である。
しかし先程とは異なる物が一つだけあった。
というより、異なる者が一つだけいた。
「フハハハハっ!!喜べ!!!初心者ログインボーナスなのだ!!!」
私の胸ほどしかない小っこい幼女のつるぺたぴったんな身体に、燃えるような紅色の髪の毛はバっサバっサと振り乱れ、そのかわいらしい容姿とは正反対の黒く厳めしい軍服に身を包み、そして現実世界での彼女には生えていない小さな身体に不釣り合いなほど大きな角を頭に生やしている。
そんな彼女こそ、『色んな子を育成するのだ!!』の開発責任者、兼ゲームマスター、兼『マジックキング社』社長である、マーオ・サーマのゲーム内アバターであった。
「初心者ログインボーナス一日目は十万ゴールドなのだ!!」
『色んな子を育成するのだ!!』に関するネット上の掲示板があるが、そこで話される七割の話がゲーム自体の話だとするのならば、残りの三割はこのロリ社長の『おもしれぇ女』エピソードが話されていると言っても過言ではない。
その掲示板のエピソードをさらっと読みまた公式情報から知っていることを話すとするなら、まずここにいるのは模倣AIを使ったあくまでも偽物であるが、現実世界の社長との差は生えている角しかない、ということである。
すなわち、このアニメキャラのような人物が現実に実在するのだ。
現実世界の彼女はまず、この仮想現実のアバターと何ら変わらないロリの身体を有し、どこで買ったのか想像もできないこの軍服を着こなし、なにより『のだ!』口調を自然に使う。
「んー?もっと喜ぶのだ!このマーオ様がプレゼントしているのだぞ?喜んでしかるべしなのだ!」
後はこの通りにクソガキである。
公式PVはロリ社長が社員の制止を振り切り前に出まくりPVの様相を破壊し、マジックキング社のホームページはロリ社長の写真がドでかく貼り付けられ会社の説明は『ゲーム買うのだ!!』の一文のみであり、そして実際にログインボーナスの度にプレイヤーにウザ絡みするのだ。
見れば分かるが、身近にいたら痛々しくて共感性羞恥がえげつない人物である。
更には本人いわく成人済みの合法ロリであるという事実はもはや恐怖を感じさせる。こども大人合法ロリは現実では恐怖でしかない。
「わーやったーうれしいー」
「フっハハハハハっ!!そうであろうそうであろう!」
とはいえ、だ。
このロリが現存する生物であるということを考慮しなければ、百歩譲って身近な知り合いでなければ、彼女がキャラとしてかなり立っているのもまた事実である。
私も性的な魅力は感じないもののロリキャラは出てきたら必ず可愛いな、抱きついてその長い髪の毛に染み込んだ匂い嗅ぎたいな、とすかさず思う人種ではある。
相手は一応ゲームマスターなので実際に行動には移さないが。
ともあれ、彼女は現実に存在するというのにファンタジーキャラとして『色んな子を育成するのだ!!』プレイヤー達に概ね好意的に受け入れられている。
「あと、これもやるのだ!普通のログインボーナス、初級ポーションなのだ!」
「わーーうーれしー」
「フハハハハっ!!そうだ!!ワガハイを崇めるのだ!!」
そういうわけであるが、私としてはやはり触れないロリよりも触れるメイドイケメン女子である。早くワールドに送って欲しい。
これ以上いるとゲームマスターにセクハラで垢BANされる可能性もあるので。
「フフンっ!では満足したし、ワールドに送ってやるのだ!!」
「わーい」
また先程と同じ転移の光に包まれ始める。
しかし出鼻をくじかれた感じで今回はあまり感動はない。
「いっぱいワガハイのゲームを楽しんでくるのだ!!」
完全に光に包まれて数秒後、先程までの一人の騒ぎ声とは異なり複数の人々の声や物音が聞こえはじめ今度こそ正しく転移されたことが分かった。
そして転移の光が無くなり私の目に辺りの景色が入ってくる。
「おぉ」
一本の舗装された大きな街道。
そしてその道の両側に立ち並ぶ木造の家屋。
人の往来は多く、私と同じ初心者プレイヤーなのか側に小さめのモンスターを連れ歩いている人も数人見られる。
また荷車や馬車の往来も絶えず、道沿いの店の前には荷台から慌ただしく荷物を降ろす光景も見られる。
しかし動画で見たことあるので景色なんてのはどうでもいい。
それよりも今一番に確認したいのは
「お初にお目にかかります、ご主人様」
「ほほぉ?」
私の三歩後ろで大和撫子よろしくお辞儀をする金髪の女性。
顔を上げ、女神のごとき微笑をたたえながら自身の名前を告げた。
「私はルナ・シャーロット・ブラウンと申します。これからご主人様の身の回りのお世話をさせていただきます」
「ほほほぉぅ?」
「?」
微笑を崩さないまでも困惑を隠しきれないルナに気付かないふりをし、彼女の周りをぐるぐる周りながら全身を容赦なく穴が空くほど観察する。
まず、評価を口にするとしたら素晴らしいの一言しかない。
ルナの綺麗な所作と立ち振舞いにメイド服を幻視してしまいそうになるが、彼女が着ているのはあくまで私と同じ初期装備である。
全体的にヨーロッパの兵士のような、ファンタジー創作で駆け出し冒険者のしていそうな格好で、包帯とかに使われるリネンみたいなざらざらとした布地からできた上下の庶民みたいな服とその上に装着した胴体から肩、そして腕をしっかりと覆っている革鎧、靴は紐で編み上げ締めているロングブーツを履いている。
私のようなランダム生成で作った、アニメでよく出てくるようなモブキャラだけれど世界全体の顔面偏差値が高いせいで普通に可愛い顔なのにモブ顔に見える系のアバターがこの初期装備を着ると中々のモブ具合で誰とも区別できなくなるほどだが、彼女は違う。
同じ装備のはずなのにルナは物語初期、駆け出しの女性主人公かのような区別化された輝きと美しさを放っている。
解説口調で言っているが自分でもこの輝かしさの分析は完全には出来ないほどに得も言えない主人公感がはっきりと存在しているのだ。
私が作り上げたイケメンな顔立ちは勿論その輝きの要因の一つとなっているはずだが、それ以上にこの服装故に目を、私のこの下衆の目がどうしても惹かれてしまう箇所について無粋であると承知しつつも解説させていただきたい。
この多分リネンでできた上下の服だが初期装備ということもあってかなり薄く身体のラインが出てしまうのである。
健康的で柔らかそうでもみもみしたくなる感じがあり、でも男性みたいな格好良さも滲み出ていて、私のこの変態の身体を疼きに疼かせてくる。
特にその胸につけた脂肪の塊は圧巻の一言で、胴体に無理に付けたというべきその革鎧によって無理に鎧のなかに押し込まされ、横から眺めたとき、ぎゅむっっ!!という効果音が目に見えるかのように反発する乳の力強さと圧力に対して横から逃げようと鎧からはみ出たその横乳は肌着で隠されていながらなお突っつきたくなるような、たわたわたわわな弾力を誇っている。
かなり気持ち悪い解説となっている気がするが、ともかくそれほどまでにルナは素晴らしかった。
が、しかし…………
「その言葉使いは解釈違い……」
確かにこの言動はメイドとしてのテンプレとして完成しており、流石のAI性能だと言える。
だが、しかし私の理想とは反するところである。
イケメンはイケメンらしいSっぽい攻め攻めな感じが至高なのだ。
異論は受け付けないし抹消する。
「……?申し訳ございません、おっしゃっている意味が……」
「よし!行くよ、ルナ!」
「っ!?」
突如自分の回りをくるくる周りながら変態の目線を向けてきた私に対して流石に微笑を崩し困惑の表情を浮かべたルナであるが、そんなこと関係なしに彼女の腕を掴み、走り出す。
向かう場所は配信で見たことがあるので分かっている。
この大通りの真ん中に位置する一際大きな建物だ。
「かしこまりましたが、どちらへ……?」
「宿屋!ふふっ、安心して!きっちり教育してあげるからね!」
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