第2話


「できた」


 一時間前、様々な手を加える前の没個性的な見た目だった女性のモデルは今、とんでもないくらい私の性癖をくすぐる見た目の女性へと変貌していた。


 鈍く光る白銀のメッシュによって協調されるように美しく煌めく金色の髪の毛。


 鋭く威圧感を与える切れ長の目とは対照的に中に青空が詰まっているのか思ってしまうほどの澄んだ水色の瞳。


 モデルの段階のため今は無表情だが100%絶対に爽やか笑顔が似合うであろう二枚目なイケてる顔面。


 痩せすぎず太すぎない健康的なボディーライン。


 けしからん!と叫びたくなるような、衝動的にそこに手を伸ばしてしまいそうになるような巨大なおっぺぇ。


 その他にも首筋から鎖骨そして胸へと至るスケベの道の開拓に、指の長さの調整、特に中指だけ短すぎるくらいに爪を整えてあげたり、くびれからの流れで不自然にならない程度にしつつも大胆に大きくしたお尻とむちっとした太もも、あとは個人的に絶対付けたかったやつでおそらく元カノにつけられたであろう肩の辺りにうっすらと残っている咬み傷などなど


 とにかく私好みのどすけべなイケメン女子が誕生していた。


「ふぅ…………」


 あまりの達成感に一仕事終えた感じのよくわからないため息が出てしまったが、一応まだキャラの種族とモデリングをしただけである。


 あまり賢者タイムに浸っていないで次の作業に進むことにしよう。


『職業を選んでください』


 モデリングの終了ボタンを押すと種族選択の時と同じように職業の一覧が現れたが、それとは別に新しく表示されたものがあった。


 キャラのステータス画面だ。

 

ーーーーーーーーーー

名称:未設定

種族:人間(雌)

ステータス

体力HP52

魔力MP76

筋力STR36

智力INT64

耐久VIT23

器用DEX56

敏捷AGI68

詳細設定:未設定

ーーーーーーーーーーー

 


「ふむふむふむ……分かんないな」


 ステータスは纏めると、打たれ弱いし力も貧弱だけどすばしっこいし手先器用で運動よりは魔法が得意、といった感じだろう。


 ただそれぞれの数値の絶対評価としてどれくらい良いのかは分からない。流石に動画を見ているときにステータスの数値がどれくらいで良さげなのかは把握していなかった。


「リセマラは面倒だし分かんないからしなくていいや」


 ステータスは種族に大きく影響されるが、雌雄やモデリングもステータスに影響を与えるらしい。


 腕を太くしたらSTRが上がるなど分かりやすく影響することもあれば何故ここを変えたからこのステータスが変わったのか分からなかったりもするようで、それを利用して良いステータスが出るまでモデリングをちょっと変えてステータスを見て、ちょっと変えてステータスを見て、と繰り返すリセマラ、というかダイスの振り直しのようなことを育成ガチ勢はするようである。


 私は面倒だし基準もあやふやだし今の最高のモデルを崩したくないのでステータスのことはあまり気にせず職業を決めることにする。


 まず『色んな子を育成するのだ!!』では職業は制限に引っ掛からない限りいくらでもたくさん就くことができる。


 職業の切り替えも自由で一度辞めた職業でも再度就いた時には辞める前のレベルが維持されるのでどの職業に就くかあまり悩む必要はない。合わなかったらすぐに変えればいい。


 また特定の職業の組み合わせによって制限が解除され複合的な強い職業に新しく就くことが出来るようになったりするため手当たり次第に育てまくる人もいるらしい。


 育てるのが分散的になって非効率になるのではと私は思うのだが。


 そういう観点から配信者が言うところには、メインに一つ選んでそれを補助出来る職業をいくつか選んでいくと良いみたいだ。


 そんなわけでメインに据える職業を見定めるため先程から選択画面をスクロールし続けていたのだが、ある一つの職業のところで指が止まった。


「メイドか……」


 メイド、それは世界三大萌え要素の一つである。多分。


 その服装の可愛らしさもさることながら最も刺さるのはその言動。


 メイド喫茶か、あるいは夜に恋仲の二人組を特殊なラブなホテルにでも放らないと日常生活において絶対聞けないあの伝説の呼称『ご主人様』を合法的に聞けるのだ。


 可愛い女の子からご主人様と呼ばれるのは普通に嬉しいし、カッコいい女の子からご主人様と呼ばれるのはもっと嬉しい。性癖にがっつり刺さる。


「よし、メイド主体で」

 

 職業メイドを選んだことで『更に職業を選びますか』と表示が出たが、はいを選ぶ。


 このゲームではモンスターと戦う場面が多々ある。だというのに職業をメイドだけで恐ろしいモンスターの前に出すのはあまりに無謀だろう。


 そのためメイドに合った戦闘職を追加で選ぶことにする。


 メイドを職業に選んだことでいくつか選択できる職業が減った職業一覧を再度スクロールし考える。


 剣士、格闘家、暗殺者、魔法使い……


 日本のオタクファンタジー文化ではメイド+戦闘職はもはや古典と言っていいほどに開拓しつくされ現実的に考えたらあり得ないような組み合わせでも絶対誰かが思い付き創作しているものである。


 そのおかげなのかどうかは知らないが選べる戦闘職はかなり多い。


 正直どれを選んでも萌えるのだが、私は暗殺者を選んだ。


 悪意を秘めて訪ねてきた客人に対して殺気を出し牽制をかけるメイド。


 人影薄い裏路地で突然襲われた主人を守るため、スカートの下に仕込んだ暗器を構えるメイド。


 更には普段はおちゃらけた態度を取っているが、ふとしたときに暗殺者の鋭い一面が出てギャップを見せるメイド!


 うむ、素晴らしい。


 これら王道のシチュエーションたちが目に浮かぶように想像できる。


 自分の作ったあのイケメン女子にそんなことをさせられると思うと鼻息が荒くなる。


 が、流石にはたから見ると気持ち悪いので一旦冷静になろう。


 一応、暗殺者を選んだ合理的な理由もある。


 身長170近くなのにSTR、VITが低くAGIが高いというよくわからない運動能力をしていることから正面切って戦うのは苦手と判断して剣士のようなバコスコ切って殴っての職業は無し。


 ステータスの高い部分に注目するとMP、ING、AGI、DEXのため、魔法を使う職業もありかと思ったがあんまりしっくりイメージがこなかったので止めた。


 AGI、DEXが高いため他にも盗賊、レンジャーなども候補にはあったが、このイケメンに盗賊はないし、メイド+レンジャーもなんか変な感じがある。


 そうした合理的な、きっと多分ほとんど合理的な理由で暗殺者を選ぶ運びとなったのである。


『更に職業を選びますか』

「うーん……いいえ、っと」

 

 本当は暗殺者まわりを補強するように更にいくつか職業を就かせておくといいのだろうが、後から決めることにする。必要になったらやろう。


 正直な話をすると、選ぶのが面倒くさくなったからである。


 それに具体的にあのイケメン女子が動いているところを想像したら早く見てみたくなってしまったのだ。


 ここからはテキパキと進めることにする。


『名称を設定してください』

「んっ…………」


 早く進めることを決意した矢先につまずいてしまった。


 名前か……


 私自身、名前のセンスはある方だと自負している。


 弟が拾ってきた捨て犬に健康かつモフモフになってほしいという願いを込め『モフモフ虎太郎』とセンスの塊のような名前を付けた。


 ただ、動物と同じように人間に名前をつけるのも駄目だろう。


 ペットと同じ感覚であのイケメン女子に対して『ドスケベイケメン』なんて名付けたら価値あるイケメンが損失されることになる。


 ここで求められるのはありきたりの名前で、かつ涼しげで爽やかで美しくてカッコいい名前が必要性だ。


「うーん……あっ!!」


 そんな名前をあれこれと考えていた時だった。


 どうやら私には人間につける名前にも並々ならぬセンスを持っていたらしい。


 普段はどうでもいいことしか浮かんでこない私の脳裏に浮かんできたのだ、この名前が。


「『ルナ・シャーロット・ブラウン』!!が、本名で呼び名はルナ、に決定!」


 澄み渡るように綺麗な月のイメージがあるルナという名前に、そこはかとなく高貴な感じがあるミドルネームのシャーロット、そしてなんとなく口当たりのよく呼びやすいブラウンでカッコよさのバランスを取る。


 我ながら完璧すぎる。私、天才だ。


『名称をルナに設定しました』

『詳細設定に本名ルナ・シャーロット・ブラウンを追記しました』

『お疲れ様でした。キャラ作成チュートリアルを終了します』

「おっ」


 どうやらついに終わったらしい。


 自分のアバター作成をテキトーに終わらせ、もう否定しないで認めることにするが完全なる私の性癖と趣味を詰め込んだキャラを作り上げ、ようやくこのVRゲーム特有の味気ない真っ白な謎空間に別れを告げオープンワールドに放り込まれるのだ。


 私の想像している『ルナ』を見るのも楽しみだし、少ないとはいえ他のプレイヤーが作ったキャラクターも見てみたい。


 それに今回作った私の理想のイケメン女子以外にももっと具現化したい性癖と趣味の理想があるのだ。


 私の『色んな子を育成するのだ!!』ゲームライフは始まったばかりである!


 そんな希望を胸に私の身体は転送前の例の光に包まれ、輝かしい世界へと移動されていく。


『ワールドに転送致します』

「いざ私の趣味欲望をぶちまけられる素敵な世界へ!」



 

 




 


 

 

 


 

 


 

 

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