第27話 *


「ねえ待って、舞踏会みたい!」


 二人だけの夜の公園に、私の笑い声が響く。

 有馬の手に支えられた私の身体は、さっきから魔法にかかったようにしなやかに動く。くるりと回ったと思えば、背中は柔らかに反って、伸ばした手が地面に触れそうになる。

 時折離れる私の手を有馬が逃がさぬように掴む度、全てをその手に捧げたいと感じる。ふわりと身体が浮いて足が地面から離れても、有馬になら全部預けられる。


「相良、軽過ぎ」

「そんなことないよ」

「あるって、ほら」

「ひゃっ」


 スマホから流れる音楽と二人の声しか聴こえない。


「ねえ、あれやってよ」

「あれ?」

「バレエのターン」


 私だけを見つめる有馬からのリクエストに、応えないなんて選択肢はない。


「スニーカーだから、期待はしないでね」


 そう言って両手を広げると、少しの勢いをつけて、砂の上で一回転する。それが思いのほか上手くいったから、私は続けて回り始める。あの日教室で観ていたジゼルのように。くるくる回って、景色が巡って、それでも止まった先には有馬がいる。


「次は有馬だよ」

「何が見たい?」

「ジャンプ!有馬のジャンプ、すごく綺麗だったから」


 両脚を前後に開脚させて、まるで背中に羽が生えたように高く飛ぶ有馬類は、本当に完璧だった。だからもう一度見たいと思っていた。


 叶うなら、私の瞳だけのその美しさを閉じ込めたいって。


「ああ、ほら。やっぱり綺麗」


 煌びやかな舞台じゃなくても、学校の体育館のステージでも、住宅街の中にある小さな公園の砂の上でも、きっと有馬類には関係ない。どこに立っていても、その動きの一つ一つに私は魅了されて釘付けになる。目が離せない。瞬きだってしたくない。


 気づけば音楽は、何度目かのリピートに入っていた。



◇ ◇ ◇



「あー楽しかったー」

「相良、むちゃくちゃ過ぎ」


 疲れ果ててベンチに座り、冷たいペットボトルの水を二人で分けて飲む。


「有馬だって、すっごい楽しそうに踊ってたよ?」

「まあ、確かに楽しかったけど」

「なら文句言わない!」

「はいはい」


 面倒そうに返事をする有馬に、自然と頬が緩む。だけど月の明かりを増すほどに、嬉しい気持ちだけではなくなる。


「今日が終わっちゃうの、寂しいね」

「……なんで?」

「だって、有馬と一緒に居て楽しかったから」


こんなデート、普通じゃありえない。

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