第24話 *
その言葉が金曜日の放課後と重なって、忘れていた涙まで零れ落ちた。
「私ね、出来なかったの」
「……あのさ、相良」
「大地先輩にしたいって言われて、それで先週の日曜日に……ホテルに行ったの!でも、怖くなって、やっぱり無理って言って……」
「いいから、無理に話さなくても」
「ううん。聞いて欲しいの」
そう言って笑って見せるけど、涙は止まってくれなくて、視界に移る有馬がぼやけてしまう。きっと困った顔をしている。引いてるかも。
「でもね、先輩は私の心の準備が出来るまで待つって言ってくれたから、すごく嬉しかったの……でも、その後から連絡が取れなくなって……最後はフラれちゃって」
考えたくないのに止まらない。
本当は有馬にこんなこと知られたくないけど、でも今言葉にしないと、私はずっと自分を受け入れられなくなってしまいそうで、やり場のない感情を自分勝手に有馬にぶつけている。
「あの日にエッチしていたらフラれなかったのかなって考えると、なんか悲しくて……結局先輩が求めていたのはそういうことで、私がいくら頑張っても大人にはなれなくて、でも!あの時ちゃんと出来ていたら、私は大人になれたのかな?」
「相良は悪くない」
「有馬はやっぱり、私より大人だね」
見上げた先の有馬が、涙のせいで知らない誰かに思えた。
有馬は最初から、私よりも余裕に満ちていて大人だった。
「ねえ、有馬」
私より先に行かないで欲しい。
「せっかくのデートだし、最後にエッチでもす……っ!?」
「類って呼べたら、してあげる」
「ふううっ!?」
その右手が私の頬を潰すように掴むから、私は喋ることも出来なくて、ただ驚いたまま有馬を見る。涙が引っ込んだせいか、ちゃんと有馬が見える。
「てか、マジでバカ過ぎてムカつく」
「うう、ひゃっ!ちょっと!!」
「で?呼ぶの?呼ばないの?」
痛かったと、文句を言おうとしたら睨まれた。
だから怒らせてしまったのだと気づく。
「呼ぶって」
「俺のこと、下の名前で呼べる?」
「……いや、えっと」
有馬類を、下の名前で?
あの有馬類を?今日ずっと一緒だった、彫刻みたいに綺麗な有馬類を?
「……無理!そんなの恥ずかしいし、絶対無理!」
「なら、帰る」
「へ?」
「それから、お前の元カレはクズだ」
「え!?」
「だから、そいつのことで泣くな」
「有馬」
頭に触れた手が、ポンと優しく私を叩く。
それから甘く目尻を下げると、私の指先を絡め取って握った。
心臓がまたドキドキした。今日、何回目?
「帰ろう、星名」
あまりに自然に、あまりに優しく紡がれた「星名」の響きに、 止まったはずの涙がまた零れ落ちた。これは大地先輩のせいじゃない。
有馬類のせいだ。
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