第23話 *

「私とお揃いとか、みんなに揶揄われるかもなのに」

「誰も一緒に学校に履いて行こうなんて言ってないけど?」

「なっ!」

「俺は履いていってもいいけどね」


 またいたずらな笑み。

 今日は色んな有馬を見ている。


 有馬も、色々な私を見ているだろうか。


「揶揄われても、相良ならいいよ」


 どこまで本気なのかもわからない。

 顔が良いから、余計に動揺する。嫌な男。


「じゃあ、明日からお揃いだね!」


 負けたくなくて言ってみた台詞は、もう滅茶苦茶。

 なのに有馬は嫌がることなく目を細めるから、調子はどんどん狂っていく。


「俺、スタンスミスの緑がいい」

「……じゃあ、私も緑」


 ムキになって答えた私に、有馬は「いいね」と笑って、近くにいた店員を呼んだ。




「ねえ、本当に変じゃない?」


 靴屋を出た私たちの足元は、サイズ違いのお揃いのスニーカーに変わっている。眩しいくらいの白に、僅かな緑が映える。


「変じゃない」

「そっか。有馬も変じゃないよ」

「それはどーも」


 揃いの靴に、揃いの紙袋。

 踏み出した足は、さっきまでよりも数倍快適だ。


「今なら走れそう」

「走んなよ?」

「はーい」

「あー腹減った」

「さっきも食べたのに?」

「ポテト食いたい」


 靴屋から一番近くのファーストフード店までの道のり、有馬は似合わないことをまた言う。


「有馬って、マックが似合わない」

「は?」

「なんか、ランチしたお店とかの方が似合う」


 やっぱり容姿のせいだろうか、大人っぽい店内でも絵になっていた。


「ああいう店は肩凝るから好きじゃない」

「……そっか」

「ん?」

「有馬も一緒で、安心する」


 同じところを見つける度に、今日が特別になる。

 不思議な感覚。たった一日で距離はぐんぐん縮まる。


 有馬がいて良かった。有馬で良かった。



「あーやっぱポテトが一番うまい」

「うん!世界一の美味しさだね!」


 午後6時。

 お昼に食べた高級ランチよりも、いつもと同じハンバーガーとポテトの方が、笑っちゃうくらい美味しかった。



◇ ◇ ◇



 ファーストフード店を出ると、外はすっかり夜の色になっていた。

 時計の針は午後の7時を回ろうとしている。

 待ち合わせた時と同じ、駅までの道を歩きながら、私はふと歩を止めた。

 通りの奥に見えるカラフルなネオン。

 

 小さくなっていた傷を、少しだけ思い出す。


「相良?」


 先を歩いていた有馬が、振り返り私を呼んだ。

 今日一日、先輩とのことを振り返って、考えて……考えたくないことまで考えた。


「どうした?」


 目の前まで来た有馬を見ることなく、私はそれを口にした。


「有馬は、アイちゃんとエッチした?」

「……何、急に」

「だから、せ、せっく、」

「したよ」


 言い慣れない言葉に口籠っていると、有馬がサラリと返事をした。当たり前のことみたいに。ううん。当たり前なんだ。

 付き合っていれば、しかも相手が年上なら、そうなるのが自然なことで、なれなかったのは……私だけだ。


「相良?なんかあった?」

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