第22話 *
確かに高校生の私が普段行かないようなお店に連れて行ってくれたり、私が知らないことを沢山知っていたりして、外見も内面も、全部が自分とは違うキラキラしたものに見えたけれど、それが大人ってことなのか、振り返る度に疑問に思えてきた。
ただ自分にないものを持っている。それだけに憧れていたんじゃないかって。
もちろん本当に好きで、恋をしていたし、今でもまだ消えたわけではないけれど……恋に落ちた時ほどの煌めきは、今はもう感じない。
「好きだったけど、憧れの方が強かったのかも。だから自分で勝手に理想を作って、彼女でいることのハードルを上げていた気もする」
「……もしもそいつに寄り戻したいって言われたら、相良はどうするの?」
「え、それはないと思うけど?」
「例えばだよ」
「うーん。ないかな」
触れる指先が、さっきまでよりも強くなった。
「たぶんもう、先輩を好きになることはないと思う」
「まだ好きなのに?」
「うん。これが消えたら、もうおしまい」
あんなにも泣いたのに、あんなにも傷ついたのに。
今は何を躊躇うことなく、笑って言えた。
「相良って、やっぱ面白い」
「ねえ!それ今日三回目なんですけど?」
「事実だから、仕方ないだろ」
不意に私を見た有馬が、目尻を細めて笑った。
それからしばらく歩いて着いたのは、スニーカーを中心に扱っている靴屋だった。
「有馬、靴買うの?」
「相良の靴」
「……ん?私?」
「足、痛いんだろ?」
そう言った有馬が、手を離して店内を物色し始める。
もしかして、私が足痛いの気づいていて、それで連れて来てくれたの?
「あの、私大丈夫だよ?」
「痛いのに?」
「それは、そうだけど。でも夕飯だって食べるから、スニーカーだと変でしょう?」
どこに行くかはわからないけれど、お昼の流れを考えるとお洒落なお店の可能性が高い。さすがにこのワンピースにスニーカーは……一緒にいる有馬までバカにされてしまうかもしれない。
「ああいう店は行かない」
「え、そうなの?」
「せっかくなら、旨い店に行く」
「旨いって、たとえば?」
「マック」
「……へ?」
「だから格好とか気にせずに、痛くない靴を選べばいいよ。俺からのプレゼント」
そう言った有馬の手が、ポンと頭に触れた。
「待って、プレゼントって!?」
「言ったよね?俺は、あげたい派だって」
それは確かに聞いたけど。
「財布は無理だけど、スニーカーくらいなら買える。一応今は、相良星名22歳が俺の彼女だし」
こんなの良くないと思いながらも心臓が鳴った。
まるで有馬にも聴いて欲しいみたいに高鳴った。
有馬は私の我儘に付き合ってくれただけで、ついこの間まではお互いのことをほとんど知らなかったのに。こんなにも嬉しいと思うなんて、絶対におかしい。
「やっぱりダメだよ。自分で買う!」
お小遣いはしっかり持ってきた。
だから有馬に買ってもらうなんて……。
「なら、一緒に買う?」
「一緒って」
「相良が嫌じゃないなら、お揃いでもいいし」
「……っ」
「顔、赤過ぎ」
彫刻のように美しい指先が、一瞬だけ私の頬を撫でた。
「あ、有馬が変なこと言うから!」
「変なことって?」
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