5.PM6:00

第21話 *

「有馬、どこ行くの?」


 すっかり暗くなってきた午後5時。カフェを出た有馬は、私の手を引いてどこかへと歩く。今日は夕飯も一緒に食べる約束をしているけれど、もうお店が決まっているとか?


「相良ってさ、彼氏のどこが好きだったの?」

「え、何、急に」

「いや、なんとなく気になって」


 こちらを見ることなく話す有馬に、不思議に思いながらも考えた。大地先輩の好きな所。


「優しくて、話し上手で、お洒落で、みんなの人気者で、仕事の手際も良くて、大人なところ……かな?」

「ふーん」

「……え?それだけ?」

「今も好き?」


 立ち止まった有馬が、私を見下ろした。

 どうやら横断歩道を渡るらしい。


「えっと、好きかって聞かれたら、やっぱりまだ別れたばかりだし」

「でもさ、そいつって結局は優しくなかったってことだろ?」

「それは……そうなのかな」

「相良が今言った理由なら、同じように当てはまる奴、沢山いると思うけど?」


 ちょっと意地悪な言い方だと思った。


「そんなの、有馬には関係ない」


 だから拗ねたような答えをしてしまう。


「関係なかったのを巻き込んだのは相良だよ」

「……そうだけど」

「相良もやっぱり、大人だから良かったの?」

「え?」

「その先輩が、俺らより大人だから好きになった?」

「……えっと」


 困って視線を迷わせているうちに、信号が青へと変わる。動き出した人の波に合わせて、有馬の足もまた進み始める。私も、その手に引かれて歩き出す。


 どうして突然、そんなことを聞いてきたのか。有馬の考えていることが分からない。でもちゃんと、答えたい。


「私ね、今日一日大人に見られるように必死だったんだけど……なんか余計にわからなくなっちゃって」


 歩幅が狭くなった有馬の隣を歩きながら、私は自分の中でもまだ纏まっていない気持ちを話す。


「大人って、なんなんだろうね。だって今日何度も先輩のことを思い出して、先輩とのデートと……今日を比べてみたりしたんだけど、だんだん大地先輩が大人だったのかもわからなくなってきた」

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