第19話 *
「なんか勿体ないね。体操、上手かったでしょう?」
見たこともないのに言い切れたのは、その体幹の強さをあの舞台の数分で感じ取れていたからだ。
「どうかな。苦手なこともあったし……そっちは?」
「へ?」
「相良は、なんでバレエ辞めたの?」
自分も聞いたのだから、こうなれば答えるのが礼儀ってものだけど、なんとなく恥ずかしくも思う。私は有馬みたいに、才能に溢れていたわけではない。
「私、コンクールが苦手で。練習だと上手く踊れても、いざ本番になると緊張して身体が硬くなって……でも私の通っていた教室って、結構有名な先生が教えてくれるところだったから、みんなプロを目指していて。もちろん私もね、そういうのに憧れたりもしたんだけど、コンクールの時にどうしても負けちゃう自分がいて、ああ、向いてないなって。それで中学卒業と同時に教室を辞めたの」
「でも、バレエは好きなんだ?」
「もちろん!バレエも好きだし、踊るのが好き。だからダンス部に誘われた時も、すぐに入部を決めたんだ。バレエとはほど遠いけど」
「なら今はバレエは全くやってない?」
有馬の問いに、首を横に振る。
「ううん。ときどき、近所にある小さなバレエスクールで、躍らせてもらってる。ほら、やらないと忘れちゃいそうだから」
そこまで話して、知りたかった答えを見つけた気がした。
子供の頃から器械体操を習ってきて、バレエにも縁がある有馬が、高校に入学して急に演劇部に入った理由。
「もしかして、有馬も身体が鈍らないように劇部に入ったの?」
うちの演劇部はバレエ要素の強い演目にこだわっていて、演技だけでなく、高いダンス能力も求められる。その練習は毎年春に入った新入部員が、夏を迎える前に大量に逃げ出すほどに厳しいと有名だ。その厳しさがあるからこそ、賞レースの常連校になれているのだろうけど。
「まあ、そんなとこ。面白そうだったし」
きっと私たちのゆるーいダンス部では、有馬は退屈するだけだろうから、その選択は間違っていないと思う。
「私、有馬の踊り好きだな」
「え?」
「なんか、グングン心に響いてくる感じで、実は去年の文化祭の時に初めて見て感動して泣いちゃったんだ」
本当のことだったから伝えると、有馬は驚いたように目を丸くした後で、照れくさそうに「大袈裟」と呟いた。
「映画、楽しみだね」
「……だな」
私を見ることなく答えた有馬が、同時に私の手を握った。
今日二回目だ。だけど嫌だとは思わなかった。
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