第18話 *
「公開されてすぐの時に大地先輩を誘ったけど、断られて行けなかったの!もっとセンスのある映画を観たいって言われて、アクション映画を観に行くことになって」
今考えると、すごく失礼なことを言われた気がする。
だけどその時は先輩に嫌われたくなくて、よくわからないアクション映画を観に行った。それはそれで面白かったのだけど、先輩が“センスがある”“大人はこういうのが好きなんだよ”と説明してくることに、いまいち納得が出来なかったのを覚えている。
「俺も、似たような理由で断られた」
「え、嘘?有馬も?」
「うん。つまらなさそうって。もっと大人の恋愛映画が観たいって言われて、ベストセラー小説を実写化したっていうのを観に行ったけど、俺的にはそっちの方が退屈だった」
きっとその瞬間、私と有馬は同じ表情を浮かべていたに違いない。そしてこう思ったの。
「大人も意外と単純なものが好きだよね」
皮肉を言いたいわけでもないけれど、でも少しくらい悪口を言ってやりたくて、生意気な口調でそう言うと、有馬が声を出して笑った。
「それ、俺も同じこと思った」
さっきまで少し開いていた距離が、また急激に近づいた。
共通するものを見つけては嬉しくなる。
たぶん大人の大地先輩が聞いたら、バカにして笑うような会話だと思う。そういうところが子供だと罵倒される。それでもこうやって一緒に笑える有馬とのデートは、素直に楽しいと思えた。センスのない映画を、一緒に観たいと思えた。
映画館までの道のりで、あの文化祭以来ずっと気になっていたことを有馬に聞いてみた。
「有馬って、バレエ経験者?」
私があの日、舞台で踊る彼の姿を見て感じたこと。
高い跳躍に、ブレのない回転。美しい身のこなしと、しなやかに躍動する身体。もしもバレエをやっていたのなら、かなりの才能に恵まれているはずだと、羨ましく感じた。
「バレエは上の二人。俺は器械体操」
「体操?」
なるほど。そう言われると、全てが納得する。
「でもバレエの練習にも付き合わされていたから、だいたいの動きはわかる」
「そうなんだ。でもそれなら体操部のある高校に行こうとか思わなかったの?」
うちの高校には、残念ながら体操部はない。
「あーうん。周りからはそう言われたけど、もともと何かを目指しているわけでもなかったから、中学卒業した時点で、もういいかなと思ってやめた」
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