3.AM11:00
第13話 *
“オーラ”というのは本当にあるのだろう。
午前11時、若者を中心に休日の予定を楽しむ人で溢れた銀座の駅前に立つ有馬類の姿は、まさにそれを証明するものだった。
学校の外に出た有馬は、もちろん制服も着ていなくて、アンクル丈のブルージンズに、シンプルなシャツとドット柄のネクタイ。それからネイビーのカーディガンをサラリと羽織った、シンプルだけど大人っぽい恰好で立っていた。足元のブラウンの革靴も、どう見ても安物ではないだろう。全てが完璧で隙がない。そう思わせるのは、抜群なスタイルのせいだろうか。なんて嫌みな男だ。周りの視線など気にもしていなさそうな涼し気な顔がさらにそう思わせる。
「お待たせ」
もっとソワソワしながら待っていて欲しかった私は、無駄にオーラを纏うクラスメイトに渋々声を掛けた。
その視線が、手元のスマホから私へと移る。
「……寒くない?」
有馬にとっては半ば強制的に決行されたデート。その第一声からして、面倒なクラスの女子に付き合ってくれているだけなのがわかる。
「寒くない!」
満員電車と余計な緊張のせいで、ノースリーブでも暑いくらいだ。むしろ9月と言っても日中はまだ30度を超すこの時期に、カーディガンを羽織ってしまうあんたの方が、暑くないのかと聞きたいくらいだ。
「ならいいけど。とりあえず移動する?」
「え?」
「飯はまだ時間あるし、どっか見たい所とかあれば」
「あ、えっと、そうだね!」
いったいどういうテンションが正解なのかわからない私を置いて、有馬はスタスタと歩き始める。特に互いの今日の格好に対する感想はないらしい。
「もっと、可愛いとか大人っぽいとか言うことあるでしょう?」
履き慣れないヒールのせいで上手く歩けない私のことなどお構いなしに、どんどん先へ歩いて行くクラスメイトに、小さく文句を投げつける。これが本当のデートと偽物のデートの違いなのか。
別に腕を組めとか手を繋げとは言わないけれど、隣くらい歩いてくれたらいいのに。大地先輩はそういうことを自然としてくれていた。慣れているってことなのだろうけど、デートって感じが嬉しかった。
それも大人と子供の違いなのかな。
だったらクラスメイトの有馬に、一方的な期待ばかりするのは贅沢なのかもしれない。どう背伸びして欲しいかはちゃんと伝えないと、有馬だってわからないのかも。
「ねえ、有馬!」
思い切って声を出すと、その背中が立ち止まってこちらを振り返った。
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