第12話 *

 結局、全ての準備が整ったのは10時を少し過ぎた頃だった。鏡の前で最終チェックをして、玄関に並べたパンプスに足を入れると、気合を入れて扉を開けた。


「いってきまーす!」


 今から私は「相良星名22歳」。

 大人の私。大人の女。

 大人の有馬とデートをする。


「……あ、写真撮っとこ」


 家を出てすぐの歩道で立ち止まると、どうにかワンピースが写るように手を伸ばして、スマホのカメラで自撮りをした。


「“今日は少し大人気分でお出掛けです♡#大人コーデ#大人女子#天気最高”っと」


 素早くSNSに写真を投稿すると、深呼吸を一つして歩き出した。緊張していないと言ったら嘘になる。気合入れ過ぎだと、有馬に引かれるかもしれない。


 そう言えば、大地先輩はよく褒めてくれたな。服装が可愛いとか、髪型が可愛いとか……可愛いって何度も言われて、その度に嬉しくて舞い上がっていたけれど、男の人の言う「可愛い」が「好き」に繋がっていないことを、今になって理解する。でも考えてみれば私も、「カッコいい」と思ったもの全てに恋をするわけではないから、そんなものなのかもしれないけれど。


 それでもやっぱり、好きな人に言われると、特別な音に聞こえてしまう。


 きっと今頃先輩は新しい彼女に「可愛いね」って笑いかけているのだろう。そこまで考えて、溜息を落とした。



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