第11話 *
「あ、これ可愛いかも」
紺地の花柄のワンピース。スカート部分には上から柔らかなレースが重ねられていて、可愛いけど上品さもある。
合わせてみると、急に大人っぽくなった気がした。
ノースリーブだけど、天気も良さそうだから一枚でも大丈夫だろう。靴は……春に買ってもらった淡いピンクのパンプスがあるから……それにしよう。
ワンピースを手にお姉ちゃんの部屋を出ると、急いでお化粧を始める。有馬との待ち合わせは11時だから、慌てることもないけれど、やっぱり変な格好では行きたくないから、余裕を持ってちゃんと準備したい。
学校に行く朝よりも気合の入るお化粧は、大地先輩と付き合いだしてから必死で研究した成果だ。ナチュラルメイクでさえ煩く言われる学校には、マスカラとチークとリップくらいしかしていけない。だけど今日は、ブラウンのアイシャドウをのせていく。濃くなり過ぎないように注意して……うん。完璧だ。
「おはよう、星名。今日はどこか行くの?」
時計の針が9時を回った頃、バタバタと一階に下りて行くと、お母さんが不思議そうに私を見た。
「ちょっと、出掛けるだけ」
用意されていたトーストにジャムを塗りながら、つけっぱなしのテレビを見る。
「出掛けるって、どこに?」
「街。買い物に行くだけ」
「食べるなら座りなさい。買い物って誰と行くの?姫花ちゃん?紗理奈ちゃん?」
キッチンからジュースを持って来てくれたお母さんに窘められて、私は椅子に座る。
「違う。他の子」
「ああ、デートね」
「え?なんで?」
話題のグルメスポットを紹介するテレビ画面から、正面の椅子に腰を下ろしたお母さんに視線を移すと、「先週も彼氏とデートだって出掛けて行ったじゃない」と揶揄うような笑みで返された。
「……大地先輩とは、別れた」
「あら?そうなの?」
「……ごちそうさま。お姉ちゃんのワンピース借りるから」
思い出してしまった最悪な出来事に、一気にテンションが下がった私は、残りのトーストをオレンジジュースで流し込むように食べると、食器をシンクに運んでリビングを出た。
確かに先週の日曜もデートだった。
今となっては、あれが大地先輩との最後のデート。
「あー!もう!忘れよう!考えるな、星名!!」
全てを消し去るように、階段を踏みつけて上った。
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