第10話 *
後で知ったのは、演劇部の顧問である三好先生がバレエが大好きらしく、毎年その要素を入れた演目を披露しているということ。とは言え、驚いたのはそれだけではなくて、演劇部の部員たちの高い身体能力。
ダンス部なんて名乗りながらも、片足は同好会に突っ込んでいるような私たちとは遥かにレベルの違う演舞に、びっくりし過ぎて声も出なかった。体育館に集まった観客たちが息を飲んで舞台を食い入るように見つめていた。
「劇部の公演は、絶対に観るべき!」と先輩たちが言っていたのも納得の、ハイレベル過ぎる演劇の世界。
その中でも、有馬類は特別だった。
主役でもなければセリフすらない。
物語の最終盤、オーロラ姫と王子の婚礼のパーティーで披露される豪華絢爛なダンスシーンで、圧倒的なオーラを放ちながら舞台の上を舞っていたのが、有馬類だった。
彼の全てが、美しかった。
誰よりも長い手足で、誰よりも高く飛ぶ姿に、私は釘付けになった。その指先一本一本までが、計算され尽したように動き、自ら主張をすることもない眼差しは、同じ人間とは思えないくらいに綺麗で、溜息が零れた。
完璧だった。全てが圧倒的だった。
唯一の失敗を挙げるとすれば、去年の演劇部の公演の話題の全てが、端役である彼に持って行かれてしまったことだろう。
有馬類は、文化祭を境に「話題の人」になった。
◇ ◇ ◇
「どうしよう……大人っぽい服がない!」
午前8時。自分の部屋のクローゼットの前に座り込んだ私は、本当に来てしまった「有馬とデートする日曜日」に頭を抱えていた。
言い出したのは自分だ。同じ日に失恋したクラスメイトと、大人のデートをする約束。“22歳の相良星名として会う”なんて、わけのわからないことまで言ってしまった。だけど実際にはまだ17歳の私のクローゼットには、高校生らしさ全開の服たちしか並んでいなくて、自分の無謀さに眩暈さえする。こうなったら、大人に頼るしかない。
パジャ姿のまま廊下に出た私は、隣にあるお姉ちゃんの部屋の扉をノックした。
返事はない。居ないのだから。
お姉ちゃんは二年前から一人暮らしをしている。だけど部屋にはまだ色々と物が残されていて……たしか、結婚式の時とかに着て行く用のワンピースが何着かあったはずだ。
忍び込んだ部屋のクローゼットを開けると、予想通り目当てのものを見つけた。
ピンクにブルーにブラック。いったい何着あるのかわからないワンピースを順番に取り出して、姿見の前で合わせてみる。あまり派手なのはさすがに着て行けない。それでもいつもよりも背伸びが出来るような……。
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