第8話 *
「ごめんね、変なことばかり言って」
こんな厄介な女と有馬だって関わりたくないだろう。さっさと帰ろう。
「これ、その先輩から貰ったの?」
「……え」
顔を上げると、目の前で星のチャームが付いたネックレスが揺れた。
大地先輩から一か月記念日に貰ったもの。
あの時は、あんなにも幸せだったのに。
「捨てられないなら、一緒に捨てに行く?」
「一緒にって」
「俺もあるから」
そう言った有馬がブレザーのポケットを探ると、シンプルな指輪を取り出した。
「それって」
「アイの誕生日にペアで買ったけど、さすがにもう着けられないから」
「……捨てていいの?」
「迷ってたけど、相良と話してたらもう終わらせようって思えた。だから一緒に捨てに行く?」
有馬の言葉に、私はネックレスをそっと掴んだ。
失恋の後、みんなはどうやって恋を終わらせるのだろう。全てが初めてだった私は、それすらも知らない。だけどラッキーなことに、私には有馬がいる。
同じ日に年上相手に失恋をする、奇遇なクラスメイト。
大人になれなかった、私と有馬。
「あのさ、有馬」
こんなことを言ったら、さらに引かれるかもしれない。
だけど、有馬ならわかってくれる気がした。
私がしたいことを理解してくれる。
「私とデートしない?」
「……は?」
「だからデート!大人のデート!」
有馬の瞳が丸くなり、吸い込まれそうだった。
去年の文化祭で初めて有馬を見た時も、私は吸い込まれそうになった。しなやかに美しく動く手足に、私は夢中になった。あの日以来、有馬類は「話題の人」になった。
「大人っぽい格好で、大人っぽい場所に行って、大人の男と女になりきって、それで……自分勝手な大人との恋にお別れするの!私たちだって本気出せば凄いことを証明したい!」
「それって、やる意味ある?」
どう思われているのか、その表情からは読み取れない。
だけど何かしないと何も変われなくて、先にも進めないから……。
「私、大人になりたい」
「……」
「私は大人になってみたい!」
それがたった一日の出来事だとしても、自分がフラれた理由を今よりは受け入れられる気もするから。でも一人では自信がないから、有馬と一緒がいい。
「……日曜なら空いてるけど」
「え?」
「その代わり今からコレ捨てに行くの付き合ってよ」
そう言った有馬の指先が、指輪を弾いて宙に飛ばした。
くるりと円を描いて私たちの間に落ちて来たそれを、もう一度その手で掴んだ彼は、やっぱり周りの同級生よりも大人びた顔で私を真っ直ぐに見つめた。
「返事は?」
「あ、えっと、はい!捨てに行きます!」
手の中のネックレスを有馬と同じようにぎゅっと握る。
「じゃあ、歩きながら決めよう」
「……決めるって?」
「日曜の待ち合わせとか、デートプランとか」
先に立ち上がった有馬が「ほら」と手を差し出す。
まさかこんなことになるなんて自分でも吃驚だ。
「有馬も意外と乗り気だね」
「……煩い。相良が言うな」
「うん。でも嬉しい」
「あーそう」
「そうそう」
掴んだ手が、グッと私を立ち上がらせた。
「ねえ、ところでどこに捨てに行くの?」
大人とか子供とか、私にはよくわからない。
「……川」
「川!?」
わからないから、探しに行く。
私と有馬が失くした、恋の
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