第7話 *

 淡々と、表情一つ変えずに話す有馬に、私の方が嫌な気分になった。自分が言われたわけではないのに自分に言われたようで、とにかく腹が立った。


「それって間違ってると思う!」


 先輩も、アイちゃんも、絶対におかしい。


「だって、好きになったらそういうのも全部乗り越えていけるものでしょう?なのに結局別れちゃうってことは、ただ好きがなくなっただけだもん!わ、私のこと本当はたいして好きじゃなくて、でも自分が悪者になりたくないから、子供の私のせいにして、でもそれって酷過ぎる!こっちの気持ちに失礼だよ!そんな曖昧な理由でフラれて、これから私はどうすればいいのって感じだし、だいたい……大人って何!?何がどう大人なの!?」


 興奮して話す私を、有馬が呆気にとられたように見る。


「いや、だから俺に聞かれても」

「でも有馬しかいないから!」

「は?」

「今の私の気持ち、理解してくれる人!」


 たいして知りもしないけど、むしろこんなにも喋ったのは今日が初めてだけど、それでも偶然にも同じ日に、似たような理由で失恋した私たちは、きっと今この校舎の中で唯一の理解者だと思う。


「……相良の言うこと否定はしないけど、それを俺に聞いても答えは出ないと思うけど?」

「私、悔しい」

「相良?」

「自分がフラれたことも、有馬がフラれたことも、どっちも悔しい。ちょっと後から産まれただけなのに」

「たぶん年齢だけじゃなくて、精神的な部分の差も言ってるんだろ。俺らは所詮17歳で高校生で、大人から見れば全てが子供っぽいのかもな」


 どこまでも落ち着いて私を慰めるように話す有馬も、本当は私と同じくらい傷ついているのだろう。そんなの、聞かなくても分かる。


「どうしたら、大人になれるのかな」

「さあ?」

「大人っぽいとか大人の女とか。私は私なりに背伸びをしたつもりだったのに、大地先輩にはそれでも足りなかったんだよね。大人のデートも大人の恋も、私には全然想像出来ないしわからないよ。だから余計に悔しい」


 大人の女になって見返してやる!なんてマンガではよくあるけれど、そもそも「大人」がわからない私には、そんなセリフも吐けない。どんな風に振る舞っていたら、どんなデートをしていたら、どんな私で居られたら、フラれずに済んだのだろう。


 あ、また泣きそう。


「これじゃあ、見返すことも出来ないね!」


 自虐的な感情で笑って見せると、有馬が困ったように眉を下げた。

 きっと、こんなクラスメイトに絡まれて迷惑に思っている。

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