第6話 *

「……え、フラれたって有馬が!?」


 思わず前のめりになる私に、クラスメイトは面倒そうに「そうだけど」と答える。きっとこいつに言ったのは失敗だったと思われただろう。だけど、どう思われても、気になるものは気になる!


「なんで?アイちゃんと喧嘩したの??」

「別に、そういうのじゃない」

「じゃあ、どういうの!?」

「……」

「……」


 黙り込む有馬をジッと見つめると、降参と言わんばかりの溜息を吐かれた。


「だから、そっちと一緒」

「一緒?」

「相良がその元カレに言われたのと一緒で、子供の俺に飽きたんだって」

「……は?」


 驚いて、言葉を失った。

 実は騙されているのではないかと、瞬きをした。


 だけど私からまた顔を逸らした有馬の横顔が、まるで自分のようだったから、本当に同じなのだと理解した。


「信じられない」

「何が?」

「有馬をフル人がこの世にいるなんて」

「いや、普通に居るだろ。誰だって好きじゃない奴に告られたら断るし、付き合ってもそれがずっと続くわけでもないし」

「でも有馬はカッコ良いでしょう?」

「それ、さっき俺が相良に言ったのと全く同じだと思うけど?」


 呆れたような瞳が私を映す。

 曇り空って感じ。私を見る有馬も、有馬の瞳に映る私も、二人揃ってドンヨリしている。


「違うよ。私のはお世辞じゃないもん」

「あーそう。だったら、相良は俺に告られて付き合うの?」

「……え?私?」

「そう。相良が今言ったのは、そういうことだろ」


 それは確かに、そうかもしれないけど。

 でも急にそんなこと聞かれても、有馬に告られるとか考えたこともないし、今もしも告られたとしても……。


「ダメだ」

「何が?」

「今なら私、誰からの告白でも受け入れそう」

「……は?」

「だ、だって!失恋って、すっごく悲しいもん!苦しくて辛くて、もう自分が嫌いになって……可哀想!!」


 思い出したら、涙がぶり返した。

 昨日フラれた瞬間の惨めな自分。ベッドの上に座り込んで、もうとっくに通話を終えたスマホを握りしめていた。あんな経験、もう二度としたくない。


「相良って、バカだな」

「……それって誉め言葉?」

「てか、泣き過ぎ」

「だ、だって、泣くよー大好きだったんだもん」

「だからって変な道に走ろうとするなよ」


 その手がまた、頭に優しく触れる。

 なんか、有馬類ってすごく良い奴なのかもしれない。


「やっぱり、おかしいよ」

「ん?」

「こんなに親切な有馬がフラれるなんて、アイちゃん見る目無さ過ぎだよ。それに、大人とか子供とか、そんな理由で恋が冷めるって、私には全然理解出来ない」

「でもそれって、俺らが子供だからわからないんじゃね」

「……子供」

「高校生の俺と付き合っていることが後ろめたいんだってさ。友達にも紹介できないし、年上だから自分が引っ張らないとって考えると、甘えることも出来ないから、だんだん一緒に居るのが疲れてきたって。同級生や年上の男を見ていると、そっちと俺を比べるらしい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る