第5話 *
「さすが教育実習生だった女子大生と付き合ってるだけあるって言うか、なんだろう。言うことも考えていることも、私なんかよりもずっと大人な気がする。私はそういう余裕みたいなのが全然なくて、大地先輩のことを好きな気持ちだけをぶつけまくってたら、こんなことになっちゃって……大人の恋愛がしたかったとか言われても、正直全然ピンとこないんだ。大人じゃないから別れるとかも……そんなの初めから分かっていたのにって感じで、もう本当に自分ダメだって思う。だから、大人な有馬が羨ましいかも」
有馬類が教育実習に来ていた女子大生の「アイちゃん」と付き合っていると噂が流れたのは、一年の冬休み明けのことだった。
すでにアイちゃんは教育実習を終えていたから、特に問題があるわけではなかったけれど、可愛くて生徒に人気だったアイちゃんが、あの有馬類と街を歩いていた姿が目撃されたことをきっかけに、学校中で噂されるようになった。しかもその噂を、有馬本人があっさり認めたから、それから一か月くらい生徒たちはその話題で大騒ぎ。もともと一部の生徒の間では「話題の人」だった彼の名が、全校生徒に知れ渡るきっかけとなったのだ。
「……別に、俺も相良と一緒だけど」
「え?」
「大人じゃなくて、子供」
「それは年齢的にはそうかもだけど、精神年齢って言うか、そういうのは有馬の方が絶対大人だよ!じゃないと、女子大生なんかと付き合えないもん!」
「でもそれを言うなら、そっちも大学生と付き合ってたんだろ?」
さらりと過去形にされたことに、チクリと胸が痛む。
「私のは付き合ったとか言えないよ。すぐに幻滅されてフラれたんだもん。もっと大人な女が良いってハッキリ言われたし」
その上、新しい彼女がいるとも。
恋愛がこんなに複雑だって知っていたら、告白なんてしなかったのに。
「大人とか子供とか、なんの違いがあるんだろうな」
「……へ?」
「すげえ都合のいい言葉で誤魔化されただけで、実際はそっちが飽きただけだろとも思うし、マジで年齢のこと言ってるなら、そんなのどうしようもねーだろって怒鳴りたくなる」
広い教室に並ぶ幾つもの机の間で、向き合ってしゃがみ込む私と有馬の視線は交わらない。周りよりも大人びたクラスメイトは、顔を横に向けて静かに溜息を吐いた。
「あの、有馬も何かあったの?」
「……」
「アイちゃんと、上手くいってないとか?」
余計なお世話だと思いながらも、知りたい気持ちを止められなかった。たぶんこういうのも子供の証だろう。大人なら、きっとこんな図々しいことは聞かない。だけど私はまだ17歳の、恋愛経験二か月未満の女子高生だから、他人の“恋バナ”にも興味がある。
「相良と同じ」
「私?」
「俺も昨日、フラれた」
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