第2話 *
「ジゼル、第一幕のバリエーション?」
「……へ?」
拍手喝采。
まさにその時、耳元に割り込んできた声に、私は驚いて顔を上げた。
「
再生を終えたタブレットからは、さっきまでの華やかな音楽も消えている。耳を塞ぐヘッドフォンを急いで外した。
「好きって言うか、昔やってたから……好き、かな」
「ふーん。なんか意外」
「え?」
それは良い意味だろうかと首を傾げると「なんとなく」と返された。たぶん悪い意味なのだろう。
「
「……部活だったら、ここに居ない」
「ふーん。部活はサボりか」
運動場から聞こえてくる掛け声が、野球部なのかサッカー部なのか、はたまた陸上部なのかもわからない放課後。殆どの生徒が帰った教室に突然現れた男子生徒は、何故か私の隣の席に座った。いや、考えてみればそこが彼の席だった。
名前は
「なんで知ってんの?俺が部活サボってること」
「演劇部の子が嘆いていたから」
「……」
「知らないと思うから言っておくけど、私、ダンス部なの。だから部室がお隣さんの“劇部”の子たちとも結構仲良いいんだよね」
有馬類は演劇部所属である。それはこの学校の大半の生徒が知っていること。1年の頃から彼は常に話題の人だ。
「なら、相良もサボりか」
「……私は、ちゃんと休むって伝えてあるから」
「休んで教室で一人バレエ鑑賞?」
長い脚を入れるには窮屈そうな机に腕を伸ばして突っ伏せた有馬が、その綺麗な顔をこちらに向ける。2年になって半年が過ぎようとしているのに、このクラスメイトの顔をこうもしっかり見たのは初めてだった。
みんなが噂する通りの綺麗な顔。イケメンなんて安っぽい言葉ではなく、ハンサムとか美形とかそんな感じの整った顔立ち。スタイルだって申し分ない。
なんだか妙に緊張してしまう。
「別にいいでしょ?気分転換になるの」
「気分転換?」
「そう。昔から好きなの、このジゼルのバリエーション……ていうか、帰らないの!?」
「……帰る気になれないから、ウロウロしてた」
その視線はどこか遠くを見るように、何もない床に向けられる。
ああ、変な所で一致した。
私も同じ。帰る気になれなくて教室に居た。
「あの……えっと、私は帰るから」
この半年まともに会話をしたことすらないクラスメイトと、これ以上ここで話すこともないし、何かと話題の多いこの男と一緒にいて変な誤解をされても困る。
お姉ちゃんから譲ってもらったお古のタブレットを鞄に仕舞うと、椅子を引いて立ち上がった。
結局、教室に居ても部活に行っても家に帰っても、考えることは同じだろう。
溜息が勝手に零れていく。
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