第1章 踊り子たちよ

1.大人になれない私たち

第1話 *

 ピケアラベスクからのパンシェは、花を摘むように可憐だ。


――別れるって、何?なんで!?

――なんでって、俺らさ、やっぱり合ってないと思うんだよね


 優雅で軽やかなアティチュード・ターンは、ふわりと揺れるチュチュが印象的。


――合ってないって、どこが??だってこの前もデートして、キスだって

――でも、その先は出来なかったじゃん?

――それは……

――星名セナはさ、子供なんだよ。最初はそれも可愛く思えたけど、俺はもう二十歳も過ぎていて大人なわけ。だから、ペースが合わないって言うか……星名とは俺が思っている恋愛が出来ないんだよね


 見せ場は何と言ってもバロネ・シュル・ラ・ポアント。片足で宙を蹴りながら進む姿は、何度見ても釘付けになる。


――だったら私も、大人になれるように頑張る!この前は怖くなって出来なかったけど、次はちゃんとそういうことも出来るようになって、満足してもらえるように、

――頑張っても、お前が子供なことには変わりないだろ?俺がしたいのは大人の恋愛。星名のままごとに付き合うのはもう限界なんだよ。てか、こういうことを言われないとわからない時点でお前は大人の女に程遠いってことだろ?それに……


 そしてラストは連続のピケターン。舞台の上で円を描くように回り続ける彼女に、全ての人が虜になる瞬間。


――もう新しい彼女出来たから、これ以上お前の相手する暇もないんだわ。だから二度と連絡してくるなよ


 誰もが憧れる美しいプリンシパルが、品のある柔らかな表情で、観客に頭を下げた。


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