第7話 そういえばあれからどうなったの?佐吉の場合

「そういえばあの後…佐吉さんはどうなりました?」

 ぽつりとすみっこが不意にそんなことを言い出したのに対し、意外だといった感じでユウちゃんは返す。

「え?佐吉さん?かぐやちゃん知らないの?」

 そう言うユウちゃんは何故かオレをチラリと見て、なにやら確認したそうにしている…なんだろう?

 その様子に月詠さまは笑い出すのを必死にこらえているようにも、なにやら楽しんでいるようにも見える。

「いえ、最終的には人生を全うし魂の洗浄を受け、これまでに3回転生していることは知っています。ですが、その…わたしが月に自首した後、あの帝に酷い目にあっていやしないか心配だったのです。佐吉さんはかぐや姫の婚約者であったワケですし、あの帝の性格的に嫌がらせやありもしない濡れ衣を着せられてやしなかったか心配で心配で…わたしのせいであの人に何かあったならと考えるととても耐え切れなくて。あの頃は斬首刑執行まで牢獄での生活でしたし…後にお師さまに伺っても『知らぬ方が良いこともある』の一点張り。お師さまに知る必要がないと言われた以上知る必要はありませんが、どうにも気になって…」

「ごめんね、わたしもその頃家族そろって島流しだったし、島を脱出して本土に着いた頃には時代が変わってたし…でもね?」

「そうですか、そうですよね、ごめんなさい、変な事を聞きました。忘れて下さいな」

「…そう?わたしも佐吉さんのその後はまったく知らないけど、今の転生体だったら…」

「そう、そうなのです!偶然にも今この時代に佐吉さんは無事転生しているようでして…ただそれがどこなのか、また誰なのか皆目見当もつかず…」

「うん、だからね?今の佐吉さんの転生体は…」

「でもいいのです。今の転生体を探したところで、あの佐吉さんとは別人ですし、魂の洗浄を二回受けた後ではわたしのことなど覚えていないでしょう…だからいいのです」

「そう、なの?」

 しょんぼらとつぶやくように告白するすみっこに同情するような視線のユウちゃんはホントに教えなくていいのか、といった具合に相変わらずこちらをチラチラと見ている、ホントになんだろう?

 そんなやり取りをする二人を見かねたのか月詠さまは観念したように話を始めた。

「あまり褒められたものではありませんが、それでも聞きたいですか?」

 その言葉に二人はパッと明るい笑顔になり、

「「ありがとうございます、月詠さま(お師さま)」」

キレイにかぶってお礼申し上げ、目をキラキラと輝かせた。


「時に咲夜、これからする話を聞いても決して後悔するでないぞ?そして明日からまたキチンと月神殿でお勤めを果たすのですよ?よいですね?分かりましたね?ワタクシとの約束ですよ?」

 月詠さまは話を始める前に妙な念押しをしてきた。

「? はい、もちろんです、お師さま。この咲夜、お師さまの御傍でお仕えできることこそがなによりの悦びにて。その様なご心配はご無用かと。むしろ積年の心配事が解消され、より一層お勤めに精が出せる事かと存じます」

 月詠さまの心配をよそにすみっこは小さな胸をどんっと力強く叩き、自信満々に答えた。

 月詠さまは話を始める前に「だとよいのですが」とぽつりと言ったが、オレ以外には聞こえなかった様だった。

 しかしそこは流石月詠さま。まさか本当にすみっこがあんなに後悔し泣き崩れることになろうとは…この時はまだ誰も思いもしなかったんだ。 


「ところで咲夜。佐吉殿と帝、よく似ていませんでしたか?」

「な、なんということを。佐吉さんとあの者が似ているワケもなく。帝は権力の座に胡坐をかくのが余程うまいのか、はたまたそれしか芸がないのか、とにかくゲスを煮詰めたような男でした。それに下品な目でわたしをジロジロとなめ回す様に見ておりましたし…その様は丁度先頃闇に葬ったあのハゲ茶瓶とそっくり。性格も佐吉さんとは真反対で性根は腐りきっておりました。さらに…」

「お、おぉぅ、そうであったか…いやそうではなく、内面ではなく外面、見た目のことよ、似ておらんかったか?」

 月詠さまフリークでもあり佐吉フリークでもあるすみっこはふんすと佐吉と帝の違いを早口でつらつら話していたが、見た目と言われ、そういえばと思い出すように返事をした。

「うーん?そう言われてみればそうかもしれません。しかしわたしは心底帝を嫌っておりましたから正直そこまで顔を見てはおりませんでした。それが何か?」

「ふふっ、やはりそうであったか、さもありなん。カグヤがもう少し帝の顔をよく見ておったら話は変わっておったかもしれぬ。実はの、佐吉殿と帝は双子での、帝が兄で佐吉殿は弟だったのよ。当時双子は忌み嫌われておった。本来は生後すぐ弟は処分されるはずだったのだが、一人の忠臣が申し出て、自分が引き取りその後決して表舞台に出さないと固く約束し、門外にて育てることとなった、それが佐吉殿よ」

 あんぐりとするすみっことユウちゃん。

 すげぇ、佐吉って人はやんごとなき生まれの者だったのか。

 しかもすみっこの話を聞く限りでは真面目な好青年だったみたいだし…やっぱり例え双子であろうと生活環境がモノを言うんだな。

 贅沢三昧、わがまま放題に育った者と、他家に引き取られ、キチンとしつけられた者とでは当然差がでる、か。

「い、いえ、いいえ。恐れながらお師さま。いくら顔が佐吉さんでも中身がアレでは…やはりわたしは斬首を選びます」

 きりりと答えるすみっこに、おぉーっと歓声を上げる女性陣。

 そうか、やはり男は顔じゃなく中身なんだな、と個人的に少し安堵すると同時に、中身を鍛えることにもっと気を付けようと強く思った。

「うんうん、よい返事です。これなら問題なさそうですね。ではここからが本番ですよ、しかと聞きなさい」

「「「はい!」」」

 どうやら実は話したくてウズウズしていた月詠さまは目を輝かせて満面の笑みで話始める。

 いつの間にか聴衆は三人に増え、レイも中に入りたそうにそわそわしている。

 そういえばさっきもかぐや姫本人の裏話を興味津々に聞いていたな。そんなに歴史の裏話モノ好きだったのか。

 しかしこうなるとあれはもはや女子会だ。オレ達がいると話しにくいこともあるかもしれないし、ここは…。

「みんなにお茶でも入れるか、レイ、手伝ってくれ」

「う、うん、わかったよ…」

 そう返事はしたものの余程話の続きが気になるのか、後ろ髪引かれる様にトボトボとついてきた。

  

「さて、咲夜…もといカグヤが自首により月に連行され、花殿家族が島流しになった後、帝の周りがにわかに騒がしくなった。なんと帝には元々瓜二つの弟がおり、しかもその者は文武両道で器量よし、おまけにかぐや姫の無理難題を唯一攻略した者として都では既に有名人であると。またこれに対し、その頃の帝は自身の利益ばかりを追い求め臣からも民からも見放されておった。そこで多くの国を憂う臣が集まり話し合い、佐吉殿の養父殿にクーデターを提案したのじゃ」

 おおーっという歓声が給湯室まで聞こえてくる。レイはそわそわしっぱなしだ。しょうがないな…

「レイ、ここはもういいからあっちで話を一緒に聞かせてもらうか?」

 そう提案したが、オレと女子会を天秤にかけ、悩んだ末に、

「…ううん、いいんだ。僕はにいさんと一緒にいるよ」

と、少し我慢したような笑顔で答えた。なんていじらしいんだお前は。


「養父殿は最初クーデターに乗り気ではなかった。先代との約束を反故にするわけにはいかぬ、と。しかし、帝が政に興味がない事やそのせいで民がとても苦しんでいる事などをコンコンと説得され、止む無く承知した。養父殿もかねてより帝の所業には思うところがあったし、最後は国の為と割り切り説得を受け入れたのじゃ。そうして立てた計画は帝を暗殺し、帝とそっくりな佐吉殿とスゲ替えて何事も無かった事にするというものだった」

 月詠さまも話に熱が入って来たのか、持っていた扇で机をダンダンと叩き、まるで講談の様。

 聴衆の三人も更に話に入り込んでいく。

「さて、帝の暗殺の方法だが、これは花殿の話を使うこととなった」

「え、わたし、ですか?」

 国を揺るがすクーデターの話の中にまさか自分の名前が出てくるとは思ってもいなかったユウちゃんはきょとんとしている。

「うん。そもそも花殿家族が島流しの原因になったのは『かぐや姫が帝の為に残した薬を盗みなめて不老不死になった』こと。そしてその話を聞く前に薬は燃やしてしまってもはやこの世に存在しないことで、帝の逆切れとも言える理不尽な怒りを買ったことによる。であれば、実は燃やした薬はニセモノで、こんなこともあろうかと養父殿が機転を利かせ本物は安全に保管してある、ということにして…」

「そうか、ニセ薬を帝に本物だと信じさせて飲ませる。帝の性格的に当然本当に効いているのか試してみたくなる、そこをってことだね」

 みんなの分のお茶を丁度良いタイミングで運んできたレイがいい所を全部持って行き、三人のわあっという歓声を一身に浴び、とても満足そうなレイ。

 対して月詠さまはなんとも渋い顔をしていたが皆気づいていないようだった。…ウチの弟が出過ぎた真似をして申し訳ありません。


 日頃の激務を難なくこなす戦い慣れしたレイには最早無駄な動きなどまったくなく、懇切丁寧にお茶を入れる姿はもちろん所要時間も芸術の域に達していた。

 話の続きを少しでも早く聞きたいレイはこれまでの自身の記録を塗り替える勢いでお茶を入れた。

 それでいて味も風味も一切落とすことはない、それはさながら歴戦の戦士の姿の様で恐ろしくもあるがとても頼もしい背中をしている…日々ファンが増えるワケだ。

 そんなレイの本気の一滴入魂のお茶とオレの秘蔵の豆大福(斜め向かいの和菓子屋さん作)を口にされた月詠さまには再び笑顔が戻り、意気揚々と続きを話し始められた。

 四人もお茶を飲んで休憩した後なので気合十分といった様子でググっと前のめり気味な姿勢だ。

 そんな中、オレは正直何故かあまり興味が湧かなかったのでゆっくりお茶をススらせてもらうことにした、ずずず…あーうまぁ、落ち着くなぁ。


「さて、その当時は重要な行事を行う際、宮仕えの陰陽師に日時や場所を占わせてそれに従うのが習わしじゃった。此度の暗殺の計画も当然占わせた結果、月の出ていない夜、佐吉殿の養父宅でとなった…ちなみにその陰陽師に指示したのはワタクシですがね」

 月詠さまは普段の優しい笑顔のまま黒い事をしれっと言った。

 これには流石にその場が一瞬で凍り付き、特にすみっこはあまりの事に口をパクパクさせている。

「お、お師さま?普段地の民に干渉してはならぬと口酸っぱくおっしゃっておられますが、それはどういった?」

 すみっこはおずおず恐れながらと物申したが月詠さまは、

「そうですよ?ワタクシ達は地の民に深く干渉してはなりません。が、どうしたら良いかと聞かれれば、こうしたら良いと答えるのもワタクシの仕事なのです。よいですね?ワタクシは聞かれたから答えたまで。決して咲夜や花殿家族の無念を晴らしたい、などといった個人的な思惑などそこには何もないのです、分かりましたね?」

と、そんなツンデレみたいな政治家の言い逃れみたいなことをいつもの優しい笑顔でおっしゃったのでそれ以上は誰も何も言えなかった。

 が、すみっことユウちゃんはその言葉にとても感動したようで目をウルウルさせ、ともちゃんは『流石つくよみちゃん分かってるぅ』っとうんうん強く頷いていた。が、ふと何かが引っ掛かったようだ。

「ねぇつくよみちゃん。佐吉さんちでってのは分かるんだけど、月が出ていない夜ってのは?つくよみちゃんが視れないんじゃヤバいんじゃないの?」

 ともちゃんのその質問はもっともだと言わんばかりにオレとレイも大きく頷く。

 月詠さまが地上を照らして地の民を導くとこれまでの話から推測できるが、なら月が出ていない新月では?月詠さまの加護が無い唯一の夜だよな、そんな時にそんな一大事を実行させるなんて…。

「それはの…」

「コホン、それはですね。地上にて月の出ていない日、地の民は新月と呼ぶそうですが、その日はお師さま唯一のオフ…休暇日なのです。月の出ている時間は公務となる為、この様な個人の感情の入った謀(はかりごと)の片棒は担げないのです。このことからお師さまは休日返上で事に当たって下さったという事がよく分かります…お師さま、今更ですが、そこまでなさって佐吉さんを導いて下さり感謝いたします。咲夜は今とても感動し、お師さまへ益々の忠誠を捧げますことをここに誓います」

 すみっこは月詠さまの言葉を遮ってつらつらと説明し、最後には片膝をついて頭を垂れた。

「う、うんうん、そうそう…って違う!咲夜、先程から言っているでしょう、ワタクシは地の民に干渉などしておりません!謀の片棒とは何という事を!ワタクシは…」

「はい、お師さま、この咲夜、もちろんすべて心得ております」

「そ、そうですか?なら、よいのです。あっ、その方たちもニヤニヤするでない!」

 月詠さまは顔を真っ赤にして否定されていたが、みんなに温かい笑顔を向けられ照れている姿はとても可愛らしい…ってか、あのウサミミも赤くなるんだな。


「…コホン、さていよいよ計画は実行された。養父殿は帝に内々に話があると文で養父宅へと誘い出した。表向きはたまには月のない夜に酒を飲むのも一興かと、といったものだった、もちろん不老不死のクスリの件も匂わせての。すると案の定帝はノコノコと誘いに乗りやってきた。帝がある程度酒を飲み進めたところで、不老不死のクスリの話題を持ち掛けてみたところ、まあ飲むだけならっとそわそわしながら承知し、その場でニセ薬を花殿の様にむせることなく見事に飲み干した!」

 べんべんっと持っていた扇でまた机を叩く月詠さまはとても気持ちが良さそう、反対にユウちゃんは…

「うぅ、あ、あれは…ホントに死ぬかと。恥ずかしいので忘れて下さい。いっそ恥ずかしくて今度こそ死にそうです」

 突然先程の失態をいじられたユウちゃんは顔を真っ赤にして両手でその顔を隠す。すみっことともちゃんはそんなユウちゃんの背中にそっと手を添え、にこりとほほ笑んだ。


「…くすっ、さてニセ薬を無事飲んだ帝はやはり思惑通り試してみようということになった…やめておけばよいのにの、やはり『好奇心はネズミを殺す』ようだの。まあ酒を飲み気が大きくなっておったのも要因であろう。しかしそんなクズでも帝は地の民にとっては尊き血筋の者。そこいらの者がおいそれと、ましてや刃物で傷をつけるなど以ての外。さてどうしたものかと帝。それならば適任がおりますと養父殿。その場に佐吉殿を呼び入れ、帝に刃傷する役目を申し付けた」

「さ、佐吉さんを?な、なぜです、何故そんな危険な役目を負わせたのですか、お師さま!」

 先程月詠さまは上手くいく暗殺計画を陰陽師に伝えたとおっしゃった。それはつまり、佐吉を帝を斬らせる配役にしたのも月詠さまの計画によるものだということ。

 それに何者も帝に刃傷するなどあってはならないとのこと、それはつまり事が済んだら口封じに殺される可能性が大きいという事だ。

 ただこの場合は入れ替わりが目的であるため、処分はされないと思うが。

 そもそもすみっこは愛しい人がその様な危険な事に関わっていないかが心配で話を聞いていた。

 予想とは別の方向から佐吉が危険にさらされたと知り、思わず我を忘れて自身の主人に食って掛かったのだろう。

「…落ち着きなさい、咲夜。もはやすべては千二百年も前の話です。歴史上の話にネタバレとはおかしな話ですが、佐吉殿は無事に人生を全うしているのです、何よりワタクシのサポートもあるのです、心配はいりません。それにある程度は覚悟していたのではないのですか?それともこの辺でお終いにした方が心情的に良いですか?」

 月詠さまは少し寂しそうに問いかける。

「い、いいえ、続きをお願い致します。無礼を致し申し訳ありませんでした。この仕置きは後にしかと頂戴いたします」

 すみっこはハッと我に返り、慌てて謝罪する。しかしうつむくすみっこの顔は納得したとは思えないものだった。


「暗殺場所を養父宅にしたのは佐吉殿と帝をすり替わらせやすくする為と、帝の最期を佐吉殿に看取らせる為でもあった。これから国の大事に関わるのじゃ、知ると知らぬとではその後の覚悟も変わってくる、これは世代交代の為には必要な儀式でもあった、分かっておくれ咲夜」

 月詠さまは諭すように説明したがすみっこは返事をせず、ただ黙って頷いた。

「さて、帝は自分に双子の弟がおるなどこの瞬間まで知らなかったが、それはそのように育てられた故、致し方無きこと。故に自身とそっくりな佐吉殿を見てひどく驚いておった、と同時にこれが策略であることにようやく気付き逃げようとする! が、時すでに遅し。見渡せば常日頃から帝に苦言を呈す反抗的な見知った顔ばかり。それらに囲まれた上、酒に酔っているせいで上手く立ち回ることも出来ず、とうとう帝は捕らえられた!」

 また月詠さまの気分がノッて来たのか再び扇で机をベンベンと叩く。

 聴衆の四人もゴクリと生唾を飲んだ。

 …変だな、オレはどこかでこれを聞いたことがあるのか?

 さっきから、いや最初から月詠さまのされるお話をオレはどこかで聞いたことがある、ような?

「この様な愚かな者でも帝は帝。改心するのであればそれもまたよし、と養父殿他、国を誠に憂う者たちの総意で即刃傷沙汰にはせなんだ。養父殿が代表して帝への政の不満、民の苦しい生活や改善の要望などコンコンと説き、改心するのであればと、説得したが、この帝の耳にはその一切が届かなかった。この期に及んでも帝の口から出てくるのは自身を捕らえた者たちへの罵詈雑言ばかり。挙句に花殿家族を流罪としたことやカグヤの事まですっかり忘れておる始末。これには聞いた者全てが言葉を失い、帝の改心は不可能と満場一致し、計画通り止む無くその場で切り捨てた」

 月詠さまは帝の首を切るような仕草をし、仕上げに扇で机をダンっと強く叩いた。

「わ、わたしのことを、ですか?あれだけ執着しておいて…やはりあのクズはわたしに対してその程度の感情しか持っていなかったのですね、むしろ清々します」

 すみっこはむしろ感情にケリが付いた様にフンっと鼻息を吹く。

 そして、場がしんっと静まり返える中、ユウちゃんの鼻をすする音だけが聞こえてくる。

「そ、そんな…お、覚えていない?そ、そんなことって?あ、姉がわたしの為にあれ程…融通してくださったお役人様もどうせ燃やしてしまうのだし、これぐらいならきっとお上も嫌な顔されないっと…なのに一緒に流罪に…わたしは家族一人ひとり看取って…元々全てわたしの病のせいですが、いくらなんでもそんなこと!こんなことって!せめて!わああぁぁ!」

 泣きじゃくるユウちゃんを二人の少女は慰めしっかりと抱きしめた。

 そんな二人の目にも涙が流れている、悲しみと怒りとが入り混じった涙が。


「帝暗殺後は佐吉殿が帝として宮殿に戻っていった。宮殿には様々な所作があり、普段の行いから入れ替わりがバレる恐れもあったが、事前に養父殿に色々叩き込まれていたことや、上は左大臣までもが事情を知る味方であったため、特に大きな問題などなく過ごすことが出来た。佐吉殿は養父殿や左大臣達と常に協力し、それまでの悪政悪習を次々と改修する。また市政の声にも広く答え、とうとう歴代の帝の中でも指折りと評されるまでになった!」

 月詠さまがベンっと扇で机を叩くと、今度こそ四人のわあっという歓声を一身に浴びる。その表情はとてもとても満足そうなモノだった。きっとこれをさっきも味わいたかったんだろうな、ホントすみません、大恩あるはずのウチの弟が…。


「さてここで優花殿には不憫な事をまた伝えねばならぬ、すまぬの」

 月詠さまが落ち着いた口調でユウちゃんになにやら悲しいことでも伝えようとする姿にドキリとするユウちゃん。

 月詠さまの表情はこれまでと違い、むしろ冷たいものとなっていた。

「え?さ、先程の事もかなりショックだったのですが、まだあるのですか?」

「実はの。佐吉殿が帝となってクズ帝のやらかしをかたずけるのに時間が思ったよりかかってしまったんじゃ」

「は、はい」

「法整備の順序の為、花殿家族の流罪取り消しの通達をする流罪放免船を向かわせた時には既に五年が経っておった。役人が島に着いた時、そこには誰もおらず、ただ人数分の墓とその墓を作ったであろう最後の人物の遺体しか発見されなかった」

「はい、先程も申しましたが、最後の姉を看取ったことで島を出る決心をしました。わたしの筋書きは不老不死の薬を舐めたとはいえ少量だった為、わたしもみんなより少しだけ長生きしたが結局一人さみしく死んでいった、というものです。そこで、もしお役人様が確認に来た時の為に皆の墓を作った最後の人間も作らなくてはならなかったのです。その役目は泣く泣く姉にお願いすることにしました。姉以外わたしの代わりの若い娘がおりませんでしたから…ですから姉の墓には誰も入っておりません。それだけが島を出る上での心残りでした。何度島に戻って家族の遺骨を持ち帰ろうと計画したことか。脱出の際、わたしは死なない体でしたので海に飛び込み何日かはたまた何十日か流されプカプカ浮いてようやく本土に着けただけなのです、ですから今となってはあの島がどこにあったのか皆目見当もつかず、とても回収に戻れませんでした」

「うん、そうだな、そうであった。アレはワタクシもハラハラしながら見ていたものです。大きな魚に食べられでもしたらエライ事になっておったしの、ほんに運が良かった。での、その迎えの役人が島に到着した日が、花殿が海に飛び込んだ三日後のことだったのじゃ。つまりあと三日、島で我慢しておれば迎えが来たし、家族の遺骨も無事持ち帰ることが出来たのじゃ。それだけではなく、佐吉殿も花殿姉妹と仲が良かったであろう?じゃから宮中で花殿をかくまうことも出来た、あんな逃亡生活などしなくてよかったのよ。さらに言えば宮中の陰陽師を通じてワタクシに事情を説明すれば使者を特別に派遣することも出来、解毒剤も千二百年待たなくても良かった…」

 あまりの事にユウちゃんは真っ青な顔で言葉を無くし、その場に力なく膝から崩れ落ちガタガタ震えている。

「お、お師さま?それは本当なのですか?であったとしても、わざわざ花さんに教えなくともよかったのでは…あんまりです。大丈夫、あなたの千二百年は無駄ではなかったですよ?その逃亡生活がなければ竹取物語も執筆しなかったでしょうし、ね?神聖力の乏しい地での修行の件も…それだけでも偉大な功績ですよ?だから…」

「ところがそれも違う」

「な?」

 一体どうしたのか冷たい表情の月詠さまは更に続ける。

「花殿は宮中でただかくまわれる生活に耐えられなくなり、様々な宮中の女中仕事を手伝うようになる。文句も言わず真面目に卒なくこなすその働きぶりと元来の人懐っこさから皆の信頼を徐々に得て、宮中において人気者になっていく。その内、かぐや姫の話を皆にせがまれるようになり、ならばいっその事小説にして皆に読ませようとの考えに至る。そしてその際には作者名ももちろん記しておるし、作中に佐吉殿も登場する。また、佐吉殿と色々思い出しながら書いたためとても至福に満ちた時間を過ごし、いつしか二人は…」

「!!」

 今度はすみっこが真っ青な顔になり、ユウちゃんは満更でもない様子で照れてくねくねしている。

 ここに来てまさかの親友によるNTR!…いや、この話は月詠さまのif、もしもの話だ。数ある分岐のマルチエンディングの一つに過ぎず、実際にあった話ではない。ユウちゃんの選ぶ選択肢次第でそんな未来もあったというだけの話だ。『遠見の術』をオレに教えたすみっこにはそれが分かるハズ…。

「な、な、な!花ちゃん!あなた、親友の元婚約者になんてことを!このドロボウ猫めー!」

 …分かっていなかった。さっきまでかばって優しくしていた相手の胸倉をつかんでガクガク激しく揺さぶる。

「ま、まって、かぐやちゃん、ちょ、まっ」

 身に覚えのないことで親友にキレられパニックのユウちゃん。もはや何故自分が泣いているのか、責められているのかちっとも分からない状況になっていた。

「そして咲夜よ、その方もじゃ。もし、かぐや姫が月に自首しなかったらどうなっておったか、知りたくはないか?」

 そう言う月詠さまは冷たく笑う。これはまさに聞いてはならない悪魔のささやき!

 すみっこ的には恐らく聞かない方がいい話なんだろうが、聞かずにはいられないといった表情をしており、とうとう耐え切れなくなって、

「…は、はい、知りたく存じます。よろしくお願いします」

悪魔のささやきに身をゆだねてしまった。

 そして月詠さまは悪魔の様な笑顔でやさしく微笑む。…実は月詠さまが話したくてウズウズしてただけなのでは?

「ふふっ、良い覚悟です。ではしかと聞きなさい、二度は話しません、これきりですからね?」

「ごくり」

「さて、カグヤが自首をせず、泣く泣く帝の妃となる道を選んだ場合の話をしましょう。まあこれももう二度と起こることもない可能性の話です、少し怖がらせましたが、気楽に聞きなさい」

 月詠さまは元の女神としての優しい笑顔に戻り、話を始めた。

「カグヤがすべてを諦めて泣く泣く入内し妃となってひと月、佐吉殿は可哀想にカグヤに愛想をつかされたと日々泣いて過ごしておった。そんな義理の息子を見ておれなくなった養父殿は宮中の親しい者たちに相談する。その話はやがて左大臣の耳にも入るようになり、とうとうある日養父殿は左大臣から内々に呼び出しを受ける。そう、そんなに不満があるのなら一緒にクーデターを起こさぬか、と」

「…え?」

「ふふっ、面白い事にこちらに進むと養父殿と佐吉殿が率先してクーデターを起こす。そしてワタクシのアシストがあるのですから失敗するはずもありません。クーデターは実史同様成功し、帝と佐吉殿は無事入れ替わる…ということは?そう、佐吉殿とカグヤは晴れて帝とその妃、正真正銘の夫婦(めおと)となる。本当のそして本来の幸せを手にした二人は周囲にも祝福され、二人仲睦まじく手に手を取って改革を進め、歴史にその名と多くの子孫を残すところとなる。しかも、カグヤが月に連行されぬから『死ねなくなるクスリ』も地上に存在しなくなり、花殿とその家族も過酷な運命を背負わなくなる」

 今度はすみっこが先程のユウちゃん同様真っ青な顔で言葉を無くし、その場に力なく膝から崩れ落ちガタガタ震えボロボロと泣き出した。違うのはその様子を冷たい目でじっと見つめるユウちゃんがいることだ。

「更に…」

「! ま、まだあるのですか?」

 そんな未来があったのかと、むしろそちらの方がとブツブツ呟き、ガクガク震え、ぼろぼろと涙を流すすみっこに月詠さまは更に追い打ちをかける。

 月詠さま、もうやめてあげて!すみっこのHPはとっくにゼロです!これ以上はオーバーキルですってば!

「そなた先程優花殿に万病薬の話をしましたね?その他は試そうと思わなかったのですか?」

 少し冷ややかな笑みを浮かべ問われたすみっこはぎくりとする。

「…そ、それはそのぅ」

「やはりの、なんとも詰めの甘い…宮中で幸せな生活送り、また妃としての政務と神事に忙しい日々を送るカグヤの元にある一報が届く。親しくしておった女中の優の妹、花の病状が悪化し明日をも知れぬ身であるとの知らせが。カグヤは唯一無二の親友の為、すべての職務を放り出し、花殿の元へ駆けつける。当時は医学など存在しないに等しく、苦しむ親友の傍で坊主が経をただ唱えるだけ。業を煮やしたカグヤは常に携帯しておった小さくしたカグヤの船を取り出すと、花殿を半ば強引に中の医療ポットに押し込んだ!」

「あ、アレは墜落の衝撃で動かなかったハズですが…」

「ふう、なんとも…忘れたかの?アレを作ったのはそなたであるということを。花殿を医療ポットに押し込む際に手際よく修理しておりましたよ?見事な腕前と強く友を想うその気持ちにワタクシはいたく感心したものなのですが…ともあれ花殿の病はポットに押し込んで数分で完治。以来ますます親交を深める。その後はというと、花殿はとうとうカグヤ公認の佐吉殿の側室となり、三人仲睦まじく幸せに暮らしましたとさ…」

 月詠さまはあきれ果てた様に話し、すみっことユウちゃんは文字通りポカーンと開いた口が塞がらず言葉も出ない。

 なんでこんなことまで話したんだろう、月詠さまならこの辺は上手く濁して教えそうなもんなんだが。

「ねぇかぐやちゃん、今の話だけど…」

「…な、なんでしょう?」

 ユウちゃんはまるで独り言でもしゃべっているかの様に、すみっこを見ないまま無表情で話す。

 すみっこもユウちゃんの顔をまともに見ることが出来ず、そっぽを向いたまま返事をする。

「医療ポット?ってのがあったの?かぐやちゃんならすぐに修理できる様なものが?そんな便利なものが?あの時に?」 

「そ、そう、です、ね?それにその頃は船を縮小して持ち歩ていたのです、常に…」

「なんで黙ってたの?」

 どうやらユウちゃんは問い詰めるわけではなく、ただ知りたい、といった感じで聞いているようだ。

 すみっこは意を決し、バっとユウちゃんに向き直るとすごい勢いで頭を下げた。

「ごめんなさい!決して医療ポットの事を忘れていたワケではないのです。アレはあの時代では完全にオーバーテクノロジーで使うと後処理に困るというか…それにアレを起動させると月に傍受されてお縄になる可能性があったのです…ああ、そうか、そうですね、そうです。わたしは自分の保身と花さんの命を天秤に掛けて前者を取りました、己の身可愛さにあなたを見殺しにしたのです…」

「そうじゃ、そうじゃない!そういうことじゃないの!別にかぐやちゃんを恨んでなんか!ただ、どういう事なのか、かぐやちゃんの口から聞きたかっただけなの…むしろわたしのせいでかぐやちゃんが捕まって斬首なんかされたりした方が、わたしがわたしを許せなくなる。だからこれでいいの、これでよかったの」

「はなちゃん…」

「それにね、これは全部もしもの話だよ。選択肢の選び方次第でそんな未来がありましたってだけ。ですよね月詠さま」

 ユウちゃんは月詠さまに確認を取ると、月詠さまはうれしそうにニコリとほほ笑む。

「そうです、その通り。咲夜最初に言いましたよ?可能性の話だと、忘れましたか?」

「…はい、思わず興奮してしまい、つい失念しておりました。お師さま、包み隠さず教えて下さり、本当にありがとうございます。これで積年の疑問は全て払われました。明日からまた心機一転、職務にまい進する所存です」

 すみっこは月詠さまに深々と頭を下げて、感謝を伝える。そしてユウちゃんに向き直りニコリとほほ笑む。

「花ちゃん、あなたが生涯を今度こそキチンと全うし巫女修行に来るのを楽しみにしています。…でも、もし、万が一、その時にあの時の恨みがまだあるというのならいつでも言ってくださいね。どんな責めもわたしはキチンと受け止めることを月詠さま巫女筆頭として誓います、ね」

「くすっ、うん、わかった」

 二人は互いの両手をしっかりと握り、にこやかに笑った。千二百年経っても消えない友情がここにはあった。

 そうか、月詠さまは後で何かしらの理由で知られるよりも、今すべてを話しておいた方が二人にわだかまりが残らない事を知っていたんだ。だから月詠さま自身も辛かったろうに色々教えて下さったんだ。


「ただ一つ咲夜が勘違いしていたところがあります」

 今度はいつもの明るい笑顔の月詠さまがポツリと言う。

「? なんでしょう」

 いつもの月詠さまの様子に少し油断したような様子で聞き返すすみっこ。ユウちゃんもぽえっと緩み切った表情をしている。

「カグヤが地上に墜落し、親切な翁たちの世話になった事で、月ではカグヤを一時的に地の民と認定していたのです。この意味が分かりますか?」

「「?」」

「ワタクシは常日頃から地の民に干渉してはならぬ、と言っていますね?そしてカグヤも当時は地の民扱いです、つまり?」

「カグヤちゃんも地の民、わたし達と同じだったんだから…あっ!」

「だからなんです?」

 すみっこは首を傾げユウちゃんを見る。

 オレも分かった。

 周りの様子を見るとどうやらまだ分かっていないのはすみっこだけらしい。

 そのせいかレイもともちゃんもドン引きしている、もちろんオレも。

 月詠さまはと言えばなんだか色々諦めた表情をしている。

 そしてユウちゃんはわなわなと震え出した。

「…あのね、カグヤちゃん」

「はい、なんですか?」

「色々とあるんだけど、一番はさっきの医療ポットのことかな、アレって…」

「? ええ、先程の医療ポットですか。アレは簡単に説明しますと中の被験者の容態をスキャンしてその結果を宇宙のネットワーク上の症例と照らし合わせ、適切な処置を自動的に施すという代物なのです。薬剤なども備え付けのタンクから原材料を調達して最も適した薬を処方する事が出来るのです。一人で広い宇宙を漂う盗人としては大っぴらに病院に行けなかった為、わたしが開発しましたの!どやー!」

 すみっこはペラペラと自慢の医療ポットの解説をする…好きな事を人に自慢する時ってなんであんなに早口になるんだろう。

 そしてそんなすみっこはユウちゃんの表情がなお暗い事にちっとも気が付かない。

「…うん、そうなんだ、それでね?」

「ただ欠点は使う為にはネットワークに接続する必要があることなのです。そのせいで使用する度傍受されて居場所を特定される為、毎回追い回される始末。アレをなんとかしようとしていた矢先の墜落でしたから…アレさえなければ、花ちゃんと出会ってすぐにでも…あれ?」

 すみっこはやっと気が付いたのか、真っ青な顔でハッと周りを見渡すが、すでにみんなドン引いている真っ最中だ、ユウちゃん以外はな。

「あ、あのね、はなちゃん?こ、これはそのぅ…し、知らなk」

 ユウちゃんはすみっこが何か言い訳をしようとするや、両ほっぺを力の限りつまんで引っ張った!

「い、いひゃい、いひゃい、かんにんひひぇ、はなひゃーん!」

「こ、こいつめー!傍受されないんだったら…最初の段階で使ってくれてたら…姉が帝の薬に手を出すことも…みんなが島流しになることも…おっきなお魚におびえながらプカプカすることも…ぐすっ、こいつめー!」

 ユウちゃんはこれまで見たことのない怒りの表情でなおもすみっこのほっぺをグイグイと引っ張る。

 「わたしのせいでカグヤちゃんが斬首になるなんて耐えられない」の件(くだり)は何だったのか…。

 見かねた月詠さまがユウちゃんにストップをかけた。

「優花殿、その辺で。地上に墜落したカグヤに干渉しないと決定したのは月の都合、地上のカグヤには知る由もなかったのです」

「そ、そうでしたか…」

 月詠さまのお言葉でようやく冷静になったユウちゃんはそっとすみっこのほっぺたを離す。

 余程の力を込めたのか、涙目のすみっこの両ほっぺは赤くはれ、おたふくの様になっていた。 

「ご、ごめんね、かぐやちゃん」

「いいんです、こちらこそ、ごめんなさい。ただ、なんとなくそんな気はしていたんですが、確証は無かったのです」

「そうなの?」

「ええ。思えば地上に墜落した後、追撃も捜索もなかったのは単に運が良かったのではなく、今にして思えばそういう事だったのかと」

「…そっか」

 お互いに思うところが多々あったのだろう、それから二人は黙ってしまった。


「…でも、かぐやちゃん、不思議だね」

「なにがです?」

 そんな沈黙を破ったのはユウちゃんだった。

「わたしはあと三日、かぐやちゃんはあとひと月、それぞれ我慢してたら、なんだかとってもいい結果になっていたと思わない?」

「確かにそうですね。しかもあまりにも都合が良いような…って、ああっ!」

 突然大きな声を出しわなわなと震えるすみっこにびっくりするユウちゃん。

「わっ、ど、どうしたの?」

「ふ、ふと思ったのですが、花ちゃんは島から出ない、またはわたしが月に連行されない、どちらの場合も佐吉さんとむ、結ばれていたのでは、ないですか?」

「うん?…あれ?ホントだ、そうだね、不思議だねー、変なのー。あーもしかしてわたしと佐吉さんって赤い糸で…」

 すみっこは重大な事に気が付いたように声を荒げたが、当のユウちゃんは冗談を交えて涼しげにやり過ごす。

「も、もしや当時から佐吉さんを狙って?…花ちゃん、恐ろしい娘!」

「え?な、なんでそんなことになるの?そんなワケないでしょ、そんな…」

 あまりの飛躍的な解釈に驚きぶんぶん首を振るが頬と耳が赤くなっている。

「や、やはりそうなのですね?…いえ、いいんです、仕方ありません、佐吉さんはその辺の殿御と比べると輝いてましたからね、さもありなん、です。それに親友同士で同じ人を好きになるのも致し方ありません。むしろ花ちゃんなら許せます」

「え?そ、そう?…うん、実はずっと気になってたんだよね、佐吉さんのこと。カッコいいし爽やかだし優しいし和歌上手いし賢いし…でもかぐやちゃんに悪いし、わたしも長く生きられそうにもなかったしで…」

 にこりとするすみっこに気を許したのかユウちゃんがうっかりそんなことを口走った、その瞬間!

「やっぱりかー!このドロボウ猫めー!」

 すみっこは恐ろしい顔をしてつかみかかり、ユウちゃんのほっぺたを先程のお返しとばかりにグイグイと引っ張る。

「いひゃい、いひゃい、ひゃめてー!かふひゃひゃん、かんにんひへー!」

 ユウちゃんは泣きながら許しを請うがすみっこは聞き入れようとはせず、なおもグイグイする。しかし、その表情はどこかうれしそうにしているようにも見えた。

 その様子に月詠さまはクスクスと笑い、レイもともちゃんもあきれ果てたように見守った。


 つづくよ

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