第18話
「……とにかく、聞きたい、です」
背筋をピンッと伸ばして真剣を装う。
そんなわたしの様子に粟田くんは、はぁ、とため息をちいさくついた。
視線はノートへ、じっと一点だけを見つめながら彼はゆっくりと言葉を紡いだ。
「おれも、楽しくもないことにあわせて笑うのが苦手で、嫌いだった」
ざわめき立つ教室で、粟田くんの落ち着く声が、あたたかい光を帯びながらわたしの心に積もる。
「面倒くさいから、上手くできないってわかってるから、だから」
――ひとりでいる。
そう言葉を続けて、粟田くんは口もとを微かに緩める。
「栞はただのお節介な幼馴染だし、渉は良いやつってだけ。そんなふたりと巡り会えたおれは、きっと運がいい」
そう話す彼の声色が、どこか清々しく聞こえたのはわたしの気のせいだろうか。
粟田匠くんは、ひととあまり関わらない。
彼が話すひとといえば、幼馴染である牧原栞さんと友人の佐野渉くんのふたりくらい。
休み時間は牧原さんと一緒にどこかへ消えるし、授業中はいつも寝ている。
そのくせとある〝噂〟で生徒たちや先生から注目される、有名人。
彼の話は詳しくはなかったけれど、そんな彼がわたしと同じ悩みを抱えていたなんて、到底考えもしなかった。
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