第17話

栞、というのは同じクラスの牧原栞さんのことだろう。

 粟田くんとは違うジャンルでの有名人で、〝気を遣う〟ということとは対極の存在。ファンもアンチも多いけれど、本人はそこまで気にしていない。

 そんな印象を勝手に抱いている。


 今日は風邪で休みらしいけれど、いつも教室を沸かせる彼女がいないだけで、違うクラスで授業を受けているみたいに思える。



「まあでも、粟田くんは本音で言い合えるような友達がいるから、わたしの悩みとかわからないかもね」



 若干の嫌味を織り交ぜた言葉を粟田くんに放つ。

 なんだかんだいっても、粟田くんとわたしとでは、そこに大きな違いがある。

 〝友達〟がいるのか、どうなのか。



「……別に、おれは運がいいだけ」



 運、という言葉が思いがけなくて、机へ向けていた目を粟田くんのほうへ動かす。



「なにそれ」

「……なんでもない」

「いやいや、それはだめ!」



 食い気味に言うと、粟田くんは前髪に隠れた目を驚いたように見開いた。

 そういう興味を持つことだけ言って終わるのは、ずるい。

 モヤモヤだけを残すのは嫌いだ。



「わたしの愚痴を聞いたんだし、粟田くんもなにか言わないとフェアじゃないから!」



 そうまくし立てながら、わたしは何を言っているのかと、頭の中に〝?〟マークが浮かぶ。

 フェアって、いったいなにが。


 そう思ったのはわたしだけでなかったみたいで、粟田くんも意味がわからないというように少し眉を寄せている。

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