第16話

だけれど、ほとんど話したことのない男子に、この話題はあまりに重すぎる。しかも本人が数列前にいる授業中だ。



「……えー、なんのことでしょうか?」



 とりあえず誤魔化す、これに限る。


 すると粟田くんはノートを書く手を止めて、視線だけをこちらへ軽くよこした。感情が読み取りにくいけれど、なんだか微かに呆れの色が混ざっている気がする。



「ひとりごと、聞こえてたけど」



 ひとりごと。その言葉が頭のどこかにつっかえて、ふわりと急に軽くなった。

 先ほどの呟きが脳裏に蘇る。


――『やっぱり面倒くさい』

――『わたしって、友達ほしいのかなあ』


 聞かれてたのか。粟田くんに。

 もう、なんか、うん。恥ずかし。




「大変なんだな、女子って」



 ペアワークがはじまり教室が賑やかになって、粟田くんの声量もこころなしか上がった気がする。

 そしてわたしは、なぜか粟田くんに愚痴を聞いてもらってしまった。


 友達って面倒くさいなー、とか。

 気を遣うの疲れた、とか。


 これは粟田くんが聞き上手だったせいだ。もう今さらか、と開き直ってしまったのもある。



「粟田くんって、変なひとって言われない?」

「……なんで?」

「普通、ほとんど話さないようなひとの悩みにズカズカ入り込んできたりしないよ」

「……栞のせいだな」

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