第14話
「……すみません」
「どうせノート書いてないんだろ。今日提出なんだし――そうだな、美里に見せてもらえ」
「……ん?」
今、名前を呼ばれた?
わたしは唖然としているのに、英語教師は満足げに授業へと戻っていく。
それを口をまんまるにして見送っていると、
「……ごめん、ノート見して」
わたしのほうへ軽く体を傾けるようにして粟田くんが話しかけてきた。
授業中だからか声量を控えられた、心地のよい低音。
さっきまで突っ伏して寝ていたからか、まだ目は少し眠そうで、長い前髪も変な方向へ跳ねている。
「っあ、うん」
ちいさく頷いて、書きかけだったノートを閉じる。それを渡そうと手にとって粟田くんのほうを向きなおる。と。
ススー……と地面と擦れる音を静かに立てながら、粟田くんが机を寄せてきていた。
なんで?
「え……え? ノート貸すからいいよ?」
「でもそしたら、そっちがノート書けないだろ」
机を動かしながら言う粟田くんは変わらずぼんやりとしていて、本当になんとも思っていなさそうだ。
ノートなんてあとで書けばいいのに。
だけれど、頑なに拒否を続けるというのも失礼だ。
わかった、とわたしも机を動かして、粟田くんの机とぴったりくっつけた。
「じゃあ、はい、ノート」
「ありがと」
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