第9話

「物事、そんなにうまくいかないよねえ。一歩を踏み出す勇気って相当必要だし、それがうまくいくのも気に食わないな。下手したらそのまま絶縁になっちゃうかもしれないのに」

「そういうこと」



 だから、そういうことってどういうことだ。

 わたしの表情でそれを感じ取ったのか、栞ちゃんが「匠、簡単な説明を望む!」と眠そうにしている彼の背中をぱしぱしと叩いた。


 「うぜぇ……」とぼやきながらも、粟田くんは顔をわたしの方へ向ける。

 長い前髪の下にある切れ長の目と、初めて視線がぶつかった。



「だから、そういう解決方法しかないわけじゃないだろ。今のままでも愚痴なら栞が聞くし、それか校則破って毎日ここに来るとか、ハッピーエンドは多分、いくらでもある。無理する必要はないってこと」

「な、るほど……」



 ハッピーエンドな解決をする方法は、ひとつじゃない。

 無理して頑張る必要もない。

 わたしにとって最幸は、テンプレとは限らない。

 そういうことだろう。


 だったら、わたしの最幸は――。



「――粟田くん、栞ちゃん、ありがとね」

「解決した?」

「まだ分からないけど、でもがんばる」



 ふたりに笑みを向けて、ゆっくりと腰をあげる。

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