第8話

「これくらい、かな。なんか、ありがとう」

「いえいえ。わたしは相槌打ってただけだし」



 だけれど、こうやってモヤモヤと気持ち悪い感情を少しでも晴らすことができたのは、栞ちゃんのまっすぐな性格のおかげだ。

 別の誰かだったとしたら、絶対にこんなことを話すことはできなかっただろうから。



「でもやっぱり、なにか言わないと解決はしないよね。ごめん、とか」



 暗い気持ちは解消されたけれど、それは解決じゃない。

 また明日から、なにも言えない気持ち悪い日々が積み重なっていくことになる。



「……別に、テンプレのハッピーエンドを目指す必要はないだろ」

「え?」



 なんとも嫌な気持ちで考えていると、低い声が耳に飛び込んできた。

 チョコレート色のハスキーボイス。

 一瞬遅れて、粟田くんか、と気づいた。



「テンプレの……ハッピーエンド?」

「物語の定番。主人公が勇気を出して、和解して――っていう王道のやつ」

「ああ、わたしもあんまり好きじゃないかも」



 栞ちゃんが、粟田くんの言葉にうんうんと頷きながら同意する。

 わたしにはまったくついていけないのだが。

 その前に粟田くんがわたしの愚痴をしっかりと聞いていてアドバイス(?)をくれようとしているところに驚きなのだが。

 だるそうにしていたから、わたしの言葉は耳を通り抜けてどこかへ流れていると思っていた。

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