「羽毛」「小瓶」「フリマ」
散歩中、わいわいと楽しそうな声が聞こえたので、声のする方へ近寄っていくと、芝生広場でフリーマーケットが開かれていた。広場の入口には蚤の市、と書かれた看板が立てかけられている。面白そうだったので、少しだけ、立ち寄ってみることにした。
蚤の市にはいろんなジャンルのお店が揃っていてまるで小さな商店街みたいだった。
なにも買う気は無かったのだが、そこは人生初の蚤の市。見て回っているうちに自然と手荷物が増えていく。あれもいいなあ。これも素敵だなあ。と、可愛らしい小皿を存分に吟味して買ったあと、ふとその隣を見ると見慣れない光景が目に飛び込んできた。
天使がいた。
背中から大きな白い羽根が生えている天使が、小さな折りたたみ椅子に座って店番をしている。驚いて二度見三度見してしまったが、冷静になると、きっとコスプレかなにかだろうと思い至った。
たしかにこれは目を引く。周囲のお店と一線を画している目立ち方だ。天使のお店。コンセプトが前に出過ぎていて、奇妙さから倦厭する人もある程度いそうだが、それでも一定の集客効果はありそうだった。
椅子に座った天使は私に一瞥もくれず、真正面の一点を真顔でじっと見ていた。
天使のお店に置かれている品物はひとつだけだった。白い羽毛を詰めた小瓶がぽつんと置かれている。私はその小瓶を手に取って見ていると、前触れもなく天使が「それは天使の抜け毛です。身につけているとささやかな幸運が訪れます」とこちらに顔も目も向けずに淡々とした声で説明してくれた。
値段は300円。
天使が売る天使の雑貨。こういう物語を感じる雑貨に目がない私は、すぐに購入を決意した。正直コンセプトの強さに若干の怖さはあったがどうせ一期一会の蚤の市。もう二度とこの店主と関わることはないだろう。そう腹を決めた私は天使から小瓶を買いあげた。
「まいど」天使は相変わらずの淡々とした声でそう言った。
蚤の市で購入した食器類、ハンドメイドのランプ、ラタンの編みかご、小さな観葉植物。その全てがぴったりと、想定していた置き場所から少しもはみ出ることなく収まった。まるでここが私の定位置です、と言わんばかりのフィット感。
天使の言っていたささやかな幸運とはこういうことなんだろうか、と小瓶を見つめながら私は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます