第16話

 ターシアスに、村長はなにか耳打ちする。


 彼を囲む村の婦人たちも、口々になにかをターシアスにまくし立てる。


 数人の村人が、冷たい目でユアルーナを見ていた。


 ターシアスの表情から、笑顔がだんだん消えていった。

 彼が持っていたスケッチブックが雪の上に落ちる。


 ターシアスは立ち尽くす。金の髪が風に押されて揺れる。ゆっくりとうつむいた。


 ターシアスは、ユアルーナに視線を向ける。目に涙が浮かんでいた。


 唇を動かして、ユアルーナになにかをいおうとする。


 だが、瞳がさらに悲しい色を映す。


 彼は目を伏せうつむいた。


 ユアルーナはもうターシアスを見ることはなかった。思わず背を向ける。


 ユアルーナのほうに来ようとするターシアスを止める声がした。


 もう、花雪が降る時間だよ、ターシアス。家に入らないと、花雪が傷ついてしまうよ。

 村人たちの諭すような声がする。


 賑やかだった広場が、ゆっくりと静かになっていった。


 ユアルーナがもう一度広場を見たときには、村の人もターシアスの姿も消えていた。


 日がゆっくりと沈んでいく。

 残光がきらめくのと同時に、花雪が降ってきた。

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