あの人の帰国

第12話

「なあ、そろそろあいつが帰ってくる時間だな」


「あいつ?」


「ターシアスだよ。どうしたんだ? 待ちに待った恋人の帰還だぞ」


 ユアルーナは目を閉じたままでいた。


 そうだよね。今日帰ってくる。

 忘れるはずない。しっかり記憶に刻まれていたんだから。


 ……帰ってくる。


 ずっと逢いたかった。

 たまらなくうれしいが、不安でもある。アミナのことを知られるのが怖い。


 白い闇の中に、ターシアスの優しいまなざしが浮かぶ。


 やわらかい金の髪の向こうで、いつも微笑んでくれた優しいターシアス。力強い腕でいつもユアルーナを護ってくれた。

 お城の騎士のようだった。


 頬が熱くなる。


 ユアルーナは想像の中のターシアスにすがりつきたくなる。だが、腕を伸ばして甘えることはできなかった。


「ターシアスのみやげはなにかな。楽しみだ」


 冗談めかして、ヤナはつぶやく。


「ターシアスの絵、早く見たいな」


「世界中を回ったんだから、きっとすごく上達したよな。まだ学生なのに、うらやましいよ。俺もそんな道楽がしたい」


 ヤナだって充分、道楽なのに……。


 ユアルーナはつい、くすくすわらった。

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