第11話

防護服は安定の黄色で胸の辺りに放射線マークがあり銃も防放射線仕様にコーティングされていた。

 この先に枯柴がいるのか。奴が死ねば真実も死ぬ。殺す気は毛頭なかった。見つけ次第即時射殺という命令を受けているが生捕りにするつもりだ。奴がはったりをかましているという可能性もある。むしろそっちの方が高い。

「到着まで十五秒」

 アナウンスがかかる。

「パラシュート準備!」

 会沢が指示する。

「じゃあ指示系統のおさらいだ。アルファチャンネルは俺と来い。ベータチャンネルは浜辺代理人につけ。セーフチャンネルは浜辺代理人のサポート。かかしの一個大隊は、空と陸、海に一つずつ待機している。処理班は指示があるまで動くな。サポートは長嶺と多坂が行う。いくぞ!」 

 低音が響き渡り飛行機のハッチが開く。

 部下が次々に飛び降りていく。

「行くぞ」

「はい……」

 防護服上のパラシュートは初めてなので少し不安だが訓練通りにやればきっと大丈夫なはずだ。

 ハッチが傾く。緊張の瞬間。上は半分夜空で真下は森林……轟音が耳を突く。手足を広げないと……少し風の影響が弱まる。地上に近づくにつれて落下速度が速くなっていく。鯉村は慣れているように、空中遊泳をしている。楽しそうだがこれから始まる逮捕劇を知っていれば楽しくはないだろう。

 パラシュートを開く。

「うっ……」

 股に衝撃が走る。上の方で弾ける音がしてゆっくりと降りていく。

 無事予定のポイントに到着しパラシュートを捨てる。インカム越しに鯉村の声が聞こえる。

『森林を抜ければ核兵器の真下ということになる。今かかしの突破部隊が向かってる。扉の前で会おう』

「了解」 

 走る。防護服がかなり重いがここはすでに汚染されている可能性もある。枯柴朋邦、ミスターミッドナイト・ナイトメア。監獄にいた門松は片宮の誘拐はおとりだといった。本当だろうか。

 枝が足に絡まる。

 本質の話を思い出す。死のない生は存在しない。闇のない光も。因がなければ果は存在しない。片宮をさらわなければこの計画が実現しない? 殺されているとしたらなぜ?

考えるられるのは用済み、怒らせた、逃げようとした、口封じのため……

 片宮が生きていれば、保護できれば徹底的に枯柴や仲間の様子を聞き出し、犯罪帝国終焉を目指せる。

「十五秒で到着」

 インカムに触る。

 木と地面がなくなった。手すりの向こうは空中。

 焦るな。

 ポーチからハーネスを取り出す。ロープを投げ、器具を体に付ける。

――焦りつつ冷静に。

 意味不明な言葉が生まれたが手は止まらない。準備完了。空中に身を投げ出す。パラシュート降下の時のような迫力はないが緊張する。ハーネスや安全器具は百を保証するものではない。

 足が着きそうだ。

「五秒で到着」

『了解』

 下に鯉村が見える。

「到着」

「突破班が到着してる。予想以上に暗い。ライト付けろ」

 山に覆われるようにして隠れている扉は煉瓦に覆われていた。洞窟のように真っ暗で何も見えない。

「かかし突破班です」

「状況は」

「正直壁で隠れているだけなので爆破すれば扉はすぐに現れるでしょう。煉瓦に見せかけた石灰なので二号火薬式ダイナマイト何発かでいけます」

「頼んだ」

 かかしが爆薬をセットする。 

 インカムから聞き慣れた声がする。

『浜辺さぁん聞こえる?』

「聞こえるわ」

『今君が立ってるとこから微量の電波をキャッチした。恐らく壁の向こうは電子的にロックされた大きな扉になっている。中を傷つけないようにして』

「爆破って影響する?」

『それはダメだよ、ボディが相当へこむし回路もいかれる。そうなれば開けられない』

「分かった」

 洞窟に向き直る。

「聞いて、みんな聞いて」

 かかしの手が止まる。

「この壁の中は電子ロックされた扉になってる。爆破でその回路が傷つくと扉が開けられない。爆破は中止して」

「そうはいっても、開けれないですよ。壁で完全に固められてる。見れば分かるけど」

 隊長が壁の両端を指す。確かに石膏や漆喰で完全に固められている。人の手などで開けるのはほぼ無理そうだ。

「だが枯柴一味を捕らえるのが先決だ。何か方法はないのか」

 隊長のヘルメット越しの目に逡巡が走る。

『あのー僕に考えがあるんですけど……』

 全員のインカムから長嶺の声がする。

「なんだ」鯉村が訊く。

『村木隊長、現場にドリルあります?』

 隊長が辺りを見回すと見つけた部下が手渡す。

「あった。結構良い奴だ」

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