第27話 目覚め
「ん、んん……あれ? ここどこ?」
血を流しすぎて貧血で倒れた俺は、何とか身体を起こした。完全に気を失っていたらしい。手のひらをちょっと切ったくらいで何とも情けない話だが、呪禍により身体能力や体力が軒並み低下している俺は血気盛んな性格だが常に貧血気味なのである。俺にとっては鼻血でさえ結構しんどいのだ。
次からはこういう事態に備えて防刃素材のグラブでもはめておくか? いやでも本物のナイフを使う自害ジョークかますバカは早々いないだろうから大丈夫か?
そんな事を考えながらぼーっとあたりを見渡す。感触からしてソファか何かに横たえられていたようだ。右手を見ると包帯が巻いてあり、誰かが手当てをしてくれたと分かる。それにしてもここはどこだろうか? ただでさえ目があんまり見えないのに今は貧血でクラクラしているので尚の事よくわからない。思考も中々まとまってはくれなかった。
「め、目が覚めた? 大丈夫?」
「ああ? うん。大丈夫? かな」
近くに腰掛けていた誰かに声をかけられ、反射的に答える。大丈夫かどうかで言えばあんまり大丈夫ではないが、命に別状は無さそうだし大丈夫ってことにしておこう。
…………待て、今の声は誰だ?
コロンにしては丁寧さに欠けるし、トロンにしてはトゲがない。バラント団長ことローちゃんはもっと低くてかっこいい声だし……あれ? 本当に誰だ? この離宮自体殆ど人がいないことを考えるともしかして今の可愛らしい感じの声は……。
「あー……。もしかして、クラレンス王女殿下ですか?」
恐る恐る尋ねてみると、目の前の人物は「う、うん」と控えめに返事をした。え? マジで?
俺が思わず目を見開いてしまうと、彼女はあわあわと手を動かして慌てていたが、しばらくおろおろしてから、俯きがちにこちらを見つめてきた。
「その、意外、だよね?」
「え? ああいえ、そうですね。さっきと随分雰囲気が違ってらして……その、可愛らしいなと」
「か、かわわ……!?」
俺の言葉に王女様は顔を真っ赤にして手をぶんぶんと振り回し慌てている。うーん可愛い。目がきちんと見えていればなお可愛かったろうが、何となくの手振りくらいしか分からないこれでも中々な破壊力だ。なんというかあれだな、クロウ殿下の姉君というのがよくわかる可愛さだ。
俺がそんな姿にほっこりしていると、ダンダンダンと床を強く踏みつけトロンが現れた。
「貴様〜〜〜っ! なぁにを私のおらぬ間にうちの姫様を口説き倒しておるのだこのたわけが〜〜〜っ!! とゆーか何だァ貴様その感じだとやっぱり目が見えておるのではないのか〜〜っ!?」
相変わらずすごいテンションである。俺はビシッと俺に向けて突きつけられた人さし指をがしっと掴んで答えた。
「何いってんだよ目が見えなくったって可愛いか可愛くないかくらい雰囲気でわかるわバカ。事情はイマイチ飲み込めないけどパッと見クール系で冷たい雰囲気の美女が大人しめで優しそうな性格しててこうなんというか一々反応がオーバー気味で返ってきたりしたらギャップで可愛いなってのはわかるだろ」
「なにぃ〜〜?」
俺の返答を受け、トロンはものすごいガンを飛ばしながら鼻と鼻が触れ合いそうになるくらい顔を近づけてきた。
そしてガバっと指を掴む俺の手を引っ張って寄せ、空いた方の手で抱き寄せた俺の背中をバシバシと叩いた。
「なんだよ分かってるじゃないか貴様ァ! そうだようちの姫様はすっごい可愛いんだよなんだよ話のわかるやつじゃないかよええ!?」
「ちょっ、痛い痛い」
眉間にシワを寄せまくっていた姿から一転。満面の笑みになったトロンは俺の肩をぐっと抱いてゆさゆさと俺を揺さぶり、嬉しそうに続ける。
「どいつもこいつも姫様は麗しいですねーとか美しい方ですねーとか浅いんだよなァ! 姫様のお可愛らしさってのはそんな見た目の話だけじゃなくって立ち振舞とか普段ののんびりしたお姿とかそういう内面から滲み出るとこがあるっていうかとにかく最高のお方なんだよ! わかるか? わかるな! わかるよな!?」
「おう! 分かるともよ!」
「あの……やめて……恥ずかしい……」
ワーハッハッハッと二人で笑い声をあげ、そのまま勢いでお互いの肩をバシバシと叩く。もしかしたら俺たちは本当に息がぴったりなのかも知れない。そう思いながら高笑いを継続していると、後ろから気配がした。トロンの姉、コロンである。
「トロン、それくらいになさい? 姫様がゆでダコみたいにゆだってしまいますわ?」
「あ、おっとこれは失礼しました姫様。姫様可愛いところ談義に花を咲かせたのは随分と久しぶりだったのでついつい熱が……。お許しください」
「う、うん。いいよ?」
すっと王女様に頭を下げるトロン。王女様は、トロンの頭を優しく撫でて上げた。……ちょっと羨ましい。
「それとバルディン様、本日は誠にご迷惑を……」
「ああいえ、大丈夫ですよ。お気になさらず」
こちらに向かって頭を下げようとするコロンを手で制した。
コロンに何かされた覚えは全くないし、謝られるようなことではない。
「まあでもいくら身内のネタとはいえジョークはもう少しわかりやすいほうが……あと本物を使うのもあんまし……」
「耳が痛いですわね……」
なんとも照れくさそうに笑うコロン。この人もこの人で可愛いと思う。というかトロンだって思い込みが激しいのと勢いがすごいのを除けば、普通に可愛らしい人だと感じている。素直だし、声大きいし、スキンシップ多めだしなんかちょっといい匂いするし。
……いや違う、可愛いとか可愛くないとかの話じゃないのだった。
「さてと、ある程度場も落ち着いた所で、そろそろ事情を説明してもらってもいいかい?」
俺がそう切り出すと、王女殿下は途切れ途切れに話し始めた……。
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