第16話 想定外のバカ
「そういうわけで考えても全然わからないから結局何をしたらいいのか教えてもらっていいですか?」
「えっ、ええっ……貴様マジ……ええ……?」
突然部屋に乗り込んできた上に開口一番のその言葉に、執務中だったクルエラは珍しく目を白黒させていた。
「見て下さい殿下。あの未来予知でもしてるんじゃないかってくらい見通しの立つクルエラが完全に翻弄されています。これはもう実質俺の勝ちみたいなもんですね」
「そういう勝負だったかなぁ!?」
俺たち三人は謁見の間に繰り出しクルエラに向かって正直に何をしたらいいのか聞いていた。
「いや何だろう。うむ。余は少し貴様を見誤っていたようだったな……。確かに裏表のないシンプルで気持ちのいい男だとは思っていたがここまでストレートに聞きに来るとは。余は一応その、今回の件について貴様ら三人がどういった結論を出すかというのを見極めようともしていたのだが……」
額に手を当ててうんうん唸るクルエラ。彼女のこういうところは初めて見た気がする。新鮮な気分だが、こういうところを見ると彼女もやっぱり人間なのだと分かって少し安心した。
安心したので、俺は近くから椅子を引っ張ってきてクルエラの机の前に置いてそこにどかっと腰掛ける。
「そこなんですよ陛下。俺にはどーもそこのところが分からんのです」
「…………そこのところ?」
冗談めかして陛下と呼んでみたが、彼女はそこではなく俺の発した言葉に食らいついた。
「何だってそうすぐにすぐに人を試したがるんですか?」
「…………」
返事はない。
「陛下が人間嫌いを公言してるのはわかりますよ。だから能力を重視してるってのもまあわかります。簡単には他人を信用できないけど、その人間の能力そのものは信用できるものだってことですよね? だから初対面の人とか、新しく来た人とか、そういう人に対してある程度の課題なり試練なりを課して、その人間自体は信用できなくても、仕事を任せられるだけの能力があるか試したいんですよね?」
俺の問にクルエラは何も答えないが、この沈黙が何を意味するところなのかくらいは分かる。分かったうえで俺は本題を切り出した。
「でもはっきり言いますけど、今回何かをさせたいのは殿下じゃなく俺ですよね? ならとりあえず今回の件に関しては俺にやらせるんだし、そういう試しはまた別の機会にしてくれません?」
「「えっ?」」
俺の言葉に俺の隣にいた殿下とツツジさんが驚く。
「……クロウ王太子殿下ではなく、貴様だと、そう思った根拠は?」
「根拠も何もないですよ。俺バカなんですから」
俺は背もたれに背を預け、大きくため息をついてから身を起こし、話を続けた。
「まず今回の件ですが、ツツジさんは恐らく能力がほしかったってのもあると思いますけど、今回に関して言えば彼女の役割は発破をかけることですね? 紋章士の使う契約魔術という絶対的な強制力をチラつかせることで俺や殿下から逃げの選択肢を奪ってケツを蹴り上げてやるためのものだ。あってます?」
「続けるがいい」
俺の目では彼女の表情をうかがうことはできないが、怒っている様子はない。俺はひとまず胸をなでおろした。
「それで殿下についてですが、確かに殿下の王太子という立場はかなりの手札になりますよね。今の王族で男は殿下だけですから、ほぼ間違いなく次の王になることが確定している重要な人物です。その利用価値は計り知れない」
「それを理解したうえで、今回動くのは自分だろうと考えているのか?」
「いやーだって殿下には悪いですけど現状殿下には何も出来ないでしょう? 今現在の殿下の価値は人質としての身柄にあるわけですよ。どこの世界に人質に仕事させるバカがいるんです? そうして考えたらまあなんとなく、今回の殿下の役割もわかったかなぁって」
俺がポリポリと頭をかきながらそう言い終えると、隣にいた殿下はきゅっと俺の袖をつかんだ。
「……ボクの役割って?」
不安そうにこちらを見つめる殿下に、俺はあっけらかんと答えた。
「だから、ツツジさんと一緒ですよ。俺に発破をかけるためです」
「……ほう?」
クルエラは感心したように息をついて、脚を組み替えた。
「さっきのやり取りでわかった通り、クルエラはものすごい観察眼と知識とで俺なんかの行動はお見通しなんですよね? だからこそ、この状況になったら俺が動くと考えたんですよ。普段は娼館に害をなそうとやってくる連中には基本的に我関せずな俺ですけど、殿下を俺の下につけてしばらく一緒に生活させて、ある程度情も湧くだろうタイミングで紋章士のツツジさんを出してきて殿下を一気に追い詰める。そうして追い詰められた殿下を俺が放っておけないと分かってたんですよ。そうして殿下から改めて話を聞いた俺が、殿下の覚悟に胸を打たれて動き出すと、そう睨んでたんですね?」
「……」
クルエラはまたしても何も言わない。けれど、この沈黙は余りにも雄弁だった。
「その上で言いますけど、クルエラは一つ俺のことを勘違いしてるんですよ。だから、途中までものすごい精度で俺たちの行動を先読みしてたのに、突然やってきた俺に驚いたんです。あなたは俺があなたを出し抜くために知恵を絞るとでも思ってたんでしょうが、俺はそんなことしませんよ。なんでかわかりますか?」
「……いや、分からんな」
彼女は小さく答えた。
クルエラが、あの未来予知でもしてんのかってくらい俺たちの行動を読んでた彼女が、俺がここに来ることを読めなかった理由。それはもうものすごくシンプルな話なのだ。
俺は椅子から立ち上がり、彼女の執務机に手をついて、俺の目でも彼女の顔の輪郭が見えるくらい彼女に顔を近づけて、彼女の目を見ていった。
「俺、あなたのことは結構好きなんですよ?」
「え?」
俺の言葉に、クルエラは怪訝そうに眉をひそめる。そして、ぎゅっと目を細めてこちらの目を見つめた後、火がついたように真っ赤になった。
「な、ななな、何を言っておるのだ貴様は!? 本気!? 本気でそんなこと……えっ!?」
「く、クルエラさん? 急に何を……」
急に顔を赤くして狼狽えだすクルエラに、ツツジさんは困惑したような声を上げるが、俺はそんなクルエラの様子から俺の推測が当たっていたことを確信した。
「普段のあなたを知っている身からすると、今くらいの軽口はすんなり流すものだと思うんですがね。あなたはその反応、そうなる前に俺のことをじっと見つめた感じ、多分間違いないですね」
俺はあたふたとあわてる彼女の手をぎゅっと握りしめて言った。
「あなた、その目で見た相手の心が読めるんですよね? 少なくとも、言っていることが本当か嘘か位の判別はついてるはずだ」
「「「!?」」」
俺の言葉にその場の全員が凍りつく。
「……試したのか?」
クルエラは少し怒りの気を含んだ、それでいて悲しげな声で尋ねた。
この期に及んでこの人は……。俺は握りしめた彼女の手をぐっと引いて、彼女をこちらに引き寄せる。
「試しているのはお互い様でしょうが。それに、あなたなら俺の言葉があなたをただ試そうとして出てきた言葉かどうかなんて判別つくはずですよね? 俺は本気ですよ。本気であなたのことが好きです」
「えっ、あっ、うあ」
畳み掛けるようにそう告げると、クルエラから、怒りとか悲しみとか、そういった雰囲気が霧散していくのがわかった。
「あなたがクルエラッド王家の生き残りって話を聞きました。そんなあなたが、どうして娼館の主をするようになったのか。その経緯を考えれば、あなたがなんで人嫌いのふりをしているのかは察しが付きますよ。本当は人が大好きで、能力があって頑張ってる人はもっと好きで、人と話をするのも、一緒にお茶を楽しむのも好きで、困ってる人を放っておけないあなたが、どうして気難しい顔をして人嫌いを装って必要以上に周りに人を置かないようにしてるのかなんて、バカな俺でも察しが付きますよ」
俺は彼女の手を握りしめる。俺ってこればっかりな気がするなぁ。まあこれしかないんだから仕方がないか。背伸びして頭が良い風を装っても、結局俺はバカちんなので同じことしか出来ないのだ。力もなけりゃ頭も良くない俺は、こうして何度でも正面から本音をぶつけることしか、それしか出来ないんだから。だから、本気で、真心で、これをするしかないんだ。
「怖いんでしょう? 裏切られるのが。信じた人たちが自分のことを裏切るのが。あなたがどういう経緯で、どういうタイミングでその不思議な力に目覚めたのかは分かりませんけど、その力があってなお本気で人を信じられないくらいのことがあったんですよね? 王家の生き残りであるあなたが、まだ生きているのに王家が断絶したとして国がバラバラにされて、こんなところで娼館の主なんてものをやらなきゃならないくらいのことがあったんですよね? だからあなたは、極力人を近くに置かないし、人嫌いを公言するし、能力だけしか見ないなんてことを言い出したんですね」
「……………」
クルエラは何も答えない。
「じゃあクルエラが俺の言葉が本当か嘘か分かるっていうていで今から俺の本心を話しますね。正直に俺の思ってることを全部話すので、クルエラはその綺麗な可愛らしい目で俺のことを見ててくださいよ」
クルエラの顎に手を添えて、俺の真正面から目を逸らせないようにして、俺は小さく息をついて口を開く。
「俺はあなたのことが好きです。尊敬してます。すごい人だなと思う。それと、俺は感謝もしてます。あなたは俺の命の恩人ですからね。全身を呪に蝕まれた俺は生まれた村でも冷遇されてましたし、親からも見放されてました。男でなけりゃとっとと殺されてたってくらいに。人攫いに騙されて攫われましたけど、こんな俺ですから、あなたに買ってもらえてなけりゃ今頃どこぞの路地裏で冷たくなってたかもしれない。そんな俺をあなたは買ってくれて、こうして十八になるまで育ててくれたんです。俺はあなたには返しきれない恩があると思ってるんですよ。それに、仕事を頑張った俺にあなたは本を買ってくれて、トレーニングの道具も用意してくれて、俺の頼み事は何でも聞いてくれましたよね。いくら稼いでる娼夫だといっても、小汚い呪われたガキでしかない俺に、あなたは正当な評価と報酬をくれたんです。おかげさまで俺は男にしては背も高くなりましたし、筋肉もつきました。魔術は使えないですけど、基本的な魔術知識は身につきましたし、その他のいろんなことを知ることができました。俺はあなたにたくさんのものをもらって生きてきたんです。あなたに強く感謝してる。恩義を感じてるんです。それにね、あなたがここに来てすぐに買われた俺は、あなたがとれだけ頑張ってきたかを全部全部見てきてるんですよ。王家の人間が娼館の経営なんてやったことあるはずもないのに、手探りで、見様見真似で、色々と苦心しながら試行錯誤して、まあその結果違法な娼館になったりもしましたけど、どれだけ頑張ってここを大きくしてきたかを知ってます。あなたがどれほどの頑張り屋さんで、その頑張った結果、国の貴族や商人から、娼館の淫売だの、悪魔の子だの、散々な呼ばれようをしてきたのも知ってます。そんな不名誉も全部全部織り込み済みで、それでも目的のために頑張ってきたんだなって、今ならわかります。あなたはすごい人だ。尊敬に値する素晴らしい人だ。少なくとも、俺はあなたみたいな人の下で一番の成果を上げられてることを誇りに思ってるんです。こんな娼夫なんて蔑まれてる仕事をしてる俺ですけどね、俺の知る限り一番すごい人の下で、一番すごい娼夫であることは俺の数少ない誇りなんですよ」
そこまで言うと、彼女の顎に添えていた手を離して、テーブルの上に置かれた彼女の手の上に重ねた。
クルエラは、自分の手の上に重ねられた俺の手を、もう片方の手でかすかに撫でて、少し震える声で小さく俺に尋ねる。
「でも、でも貴様は、いつか余の前から消えてしまうのだろう? 貴様が、この娼館から脱出するつもりなのは分かっておるのだ。―――貴様の今の言葉が真実なのは分かった。だが、それならどうして貴様は消えてしまうのだ? 余のことを好きだというのなら、恩義があるというのなら、余の傍にいてはくれぬのか? 貴様も、貴様も余を置いて消えてしまうのではないか?」
泣きそうな声だった。弱々しい声だった。
彼女が娼館の主となったのは、今から十年と少し前、ちょうど今の俺くらいの歳の頃だ。そんな歳から、王家の人間として、奪われた祖国を取り戻すため、その力をつけるために娼館の主としての活動を始めたのだ。気丈に振る舞い、周りから舐められないように尊大に振る舞い、弱みを見せず、その才覚に磨きをかけて、たった十年でこれほどまでの力をつけてきた。どれほどの困難な道程だったのか、どれほどの苦難の道だったのか。俺はそれを知っている。ずっと傍で見てきたから。
すごい人なんだと思っていた。俺みたいな頭の悪い嘘もまともに付けないバカと違って、すごい才能で世の中を渡り歩いてきた才女なんだと、勝手に思っていた。俺とは違う、すごい人だから、だからこれだけのことができるんだと。とんだ思い違いだ。バカバカしい。
彼女は、全てを失って、王家の誇りも奪われて、裏切られるのが怖くて、自分の傍らにいる人が消えてしまうのが怖くて、それを覆い隠すために女王たろうとし続けてきただけの女の子だった。
「……机邪魔ですね」
俺は執務机をかわして、椅子に座る彼女のとなりに立った。悲しいかな、椅子に座る彼女は大変背が高く、俺は背が低いので、ちょうど同じくらいの目線になった。
「事情……事情があるんです」
机越しよりもずっと近くで、彼女の瞳を見つめて話す。
「信じてもらえるかはわからないんですがね、俺には生まれ持った使命があるんです。必ず果たさなくちゃいけない使命が。実は俺は……この世界を救うために女神様に送り込まれた英雄らしいんです。いつの日にか、この世界を脅かす存在と対決しなくちゃいけないっていう使命があって……ここで、娼夫をしていてはきっと果たせないだろう使命なんです」
俺の言葉に、彼女は驚いたように目を見開いていた。
「あなたのことは好きです。尊敬してます。誰より頑張ってるあなたを隣で支えていく人生も、きっと素敵だとは思うんですけど、でも、それでも俺は使命を果たさなきゃいけないんです。だから、俺はいつかここを出ていかなきゃいけないんです」
「…………嘘では、無いのだな」
俺の瞳をまっすぐに見つめて、クルエラは、小さく笑った。
「そっかぁ、貴様は女神の命を受けた英雄だったのかぁ。だとするとうちの客はとんだ幸せ者だな。英雄を抱いた女など、そうそういるものではないぞ」
「ははは、それもそうですね」
笑い返して、俺は続ける。
「でも、出ていくのは今じゃありません。俺はまだ外に出たって何もできない若造ですし―――だから、その日までは俺は、あなたのことが好きな、あなたの忠実な下僕ですよ、クルエラ」
「で、あるか……」
照れたように顔を伏せようとしたので、俺はがっと両手で顔を押さえて俺の方に向ける。
「だーかーら、俺にやらせたいことがあるなら断られたらどうしようとかそんなバカな事考えて絶対に断られないような、なんなら向こうからこれやれば良いんですかって声かけてくれるように回りくどい根回しなんてしないでくださいよ。俺にさせたいことがあるなら、そんな変なことしないで、いつも通り偉そうにこの椅子にふんぞり返ってちょっと行ってこいって言ってくれれば良いんですよ。そうすれば俺は二つ返事で言う事聞くんですから。いつもそうしてるでしょ?」
「―――そう……そうだったな、うむ。貴様はそういうやつだった」
クルエラは、小さく頷いて―――彼女の顔を両側から掴んでいた俺の腕をがしっと掴んだ。
「それはそれとして貴様、忠実な下僕を名乗る割に随分と偉そうに余の顔を触るではないか」
「あっああっ! 痛い! 痛いっすクルエラさぁん! ごめん! ごめんって! ミシミシ言ってるから! 俺の可愛いお手々がミシミシ言ってるからぁ!!」
いかん調子に乗りすぎた。いつもの様子に戻ったクルエラは、いつもどおりの自信満々の顔で俺の腕を捻り上げ、悲鳴を上げる俺の様子に満足気に頷いてから俺の手を離した。
やっべーいってー……。そうなんだよな俺は確かに頑張って鍛えてるけど呪禍のせいか普通に女の人に力負けするんだよな……。現実を思い出して俺は少し悲しくなってしまった。涙目で手を擦りながら、俺はもとの椅子の方に戻って腰掛けた。
「はぁ……バルディン貴様、バカだバカだとは思っていたが、この状況ですることが今の告白じみた直訴って、他にやり方があるのではないか?」
「はい……そっすね……俺もバカだなって思います……でもバカだからあんなことしか出来ないんです……」
しょんぼりと椅子の上で小さく縮こまる俺を見て、クルエラはまたも満足そうに笑った。
「まあよい。貴様が愛すべき大バカ者であることを考慮していなかった余も悪いのだ。……全く十歳も歳上の行き遅れのババア相手に好きだ好きだと子犬のように尻尾を振りおって。余が本気にしたらどうする?」
「いや、俺としてはそれはそれで大変助かるんですけど……何度も言いますけどクルエラのことは普通に大好きですし、十歳差なんて大した事ないですよ」
「う、うむ……」
俺の言葉にクルエラは顔を赤くして目を逸らした。今気づいたんだが、クルエラは目を見ることでこっちの考えが分かるみたいだ。つまり俺と話していて目を逸らすのは俺が本心でこういう事を言ってるのが照れくさかったからと言うことだろうか。なんというか可愛い人である。そういう事をされるともっと好きになっちゃうからやめて欲しいのだが。
「……………むぅ」
そんな事を考えていると、俺の袖がぎゅっと掴まれる。そちらを見やると、殿下がなんとも言えない愛らしい顔でこちらを見あげていた。俺の目でも表情が読み取れるくらい俺に顔を近づけて、顔を赤くして何かを訴えかけているようだ。うるうると瞳を潤ませて、ぷうっと可愛らしい頬を膨らませている。これは恐らく結局俺が一人で行動してなんとか話を進めてしまっていることに対する負い目とか、自分は何もできない無力感とか、後は自分の目の前でクルエラを口説き落とすような真似をしたことに対しての抗議とか、そういう感じの表情だろう。
「えいっ」
俺は、袖を掴んだままの殿下をぎゅっと抱き寄せて唇を奪った。
「!?!?!?」
「えっ」
「ちょちょちょちょっと待たぬかバルディン!?」
その場の全員がびっくりして声を上げるが、俺は無視してキスを続行した。殿下の小さな顔にふさわしい小さな唇に舌をねじ込み、その奥にある綺麗な歯並びの歯をちろちろと舌先で弄ぶ。たまらず開いた歯の隙間に強引に舌を滑り込ませ、殿下の可愛らしい舌を蹂躙する。逃げようとする殿下の頭を無理やり押さえつけて、口で犯すように丹念に口吸いをする。
周りの声をガン無視して一分ほど舌で責め立てた後、ぷはっと口を離した。
「ふ、ふぁ……あ……」
殿下は、茹でダコみたいに顔を真っ赤にして、涙やらよだれやらでぐちゃぐちゃになった顔で蕩けて放心していた。
「それじゃあさっきの続きなんですけど」
「今の流れで話し続けるか普通!?」
クルエラに突っ込まれてしまった。何でだろう。
「いや……ちょっと殿下がいろんな感情でぐちゃぐちゃになりそうになってたんで、ここからの話をスムーズに進めるために一回ぐちゃぐちゃにしとくか……って思っただけですけど」
「だけですけど……ってええ……。バルディン貴様、こうついさっき余に感動的な告白をしておいて貴様舌の根も乾かぬうちに……」
クルエラがなんとも言えない顔で抗議してくるが、知ったことではない。俺は毅然とした態度で答えた。
「素直になって正直に俺に言ってくれれば済んだだけの話をあなたが断られるのが怖いからって色んな人を巻き込んだり、俺は本気で好きって言ってるってわかってるくせしてまーだ本気にしてしまうぞ? とか抜かしてるあなたへのちょっとした仕返しですよ」
「ぬ、ぬう……それを言われると……うぅ」
俺の言葉にクルエラは口ごもった。
「ツツジさんもすいませんねなんかこっちの都合に巻き込んじゃって……ツツジさん?」
「お、男同士……美少年……キス……」
「いやこっちはこっちで大変なことになってるなぁ……」
表情こそ動いていないものの、カッと目を見開いて俺と殿下を凝視していた。怖い。
「はぁ……とりあえず全員落ち着くまでちょっと待ちましょうか」
そう言って俺はやや前傾姿勢で座り直した。
うん、クルエラの可愛らしい嫉妬の表情とか、殿下とのキスとか蕩けた表情とかでちょっと俺のオチンチンが目を覚ましてしまいそうになっていたので、こいつにもちょっと落ち着いてもらおう。勃起しながら真面目な話できる気がしないし。
そうしてしばらくの間、若干気まずい静寂が謁見の間に満ちたのであった。
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