第36話

「アミィ!」


まだ声変わりしていない、幼いの男の子の声がその名を呼んだ。


「なぁに、おにいちゃん?」



その日は夢を見た。


(この夢は……。

俺とアミィがトーティス村に来て少し経った頃の夢だ。)


両耳の横で結った髪を揺らしながら、少女は兄のいるキッチンに向かった。と言っても、キッチンと食卓に仕切りはないのだが。


「アミィにもそろそろ、バークライト家秘伝の『マーボーカレー』を教えようと思ってな」


(マーボーカレー…。

たしかこの日は…。)


クレスとはある一件以来、仲良くなることができた。それからの事だ。


夢に出てきた場面を、その時の思い出を振り返るように、チェスターは見ていた。


「マーボーカレー…って、あの?」


思い出すように言ったアミィの顔は、少し雲って見えた。


まだ小さいせいもあるからな。マーボーカレーの辛さは刺激が強すぎたんだろう。


……とは思ったが、やめる気はなかった。

アミィの年齢(とし)の頃に、俺も教わったんだし。

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