第52話

ゼロス!?


これは夢のはずだ。


けれど行動せずにはいられなかった。

ロイドは夢中になって水を掻き分けて、黒い底に落ちて行く赤く揺らめくものを追いかけた。


「ゼロス!」


距離が縮まって、顔がはっきり見えた。


やはりゼロスだった。


声に出して彼の名を呼んだが、黒い底に身を任せるようにしていて反応はない。


「このっ!このっ!」


彼のもとに辿り着いたロイドはまず、まとわり付いている黒いものを払った。


「ゼロス!ゼロス!」


両肩を掴んで揺する。それでも反応が無い。


救いの塔での出来事がよみがえる。


「目を開けてくれよ!

ゼロス!」


「………ん」


するとゼロスのまぶたが震えて、小さくうめいた。


まぶたがゆっくりと開く。


「!……ゼロス」


安堵したロイドの顔を、何度も目をしばたたかせて見たゼロス。


「ロイ…ド?」


彼の姿をはっきりと認めたゼロスの顔は、だんだん険しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る