第91話

なんて思いつつ、そろそろ猪熊さんの車が下に着く頃かな?と思って部屋を出て階段を下って玄関口の方へ向かう──と。


「瑠衣、お出かけ〜?」


とやたらにうきうきした声のお母さんの声が後ろから届いた。


私はそれにくるりと後ろを振り返る。


リビングから廊下へ顔を出して、お母さんがこっちをにこにこ見ている。


そして、その上から顔を出してるのはお父さんだ。


私は──思わず腰に手を当てて口を曲げ、二人を見た。


「〜もしかして、“知ってた“訳?」


私が今日デートに出かけるって事を。


絶対そうだと確信を持って問いかけた先で、二人が『え〜?』と白々しく答えてくる。


「なぁに?何のこと?」


「何のことだろうなぁ?」


二人揃って下手な猿芝居をしてくる。


私は腰に手を当てたまま視線を斜め左に上げ、考える。


言ったのは猪熊さん?


それとも万亀?


何だかどっちもあり得そうだ。


……まあ、いいわ。


私はちょっと肩をすくめて息をつき、「行ってきます」とだけ告げて家を出た。

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