第80話

◆◆◆◆◆


車の中に、し〜んとした沈黙が流れる。


猪熊さんは『私はここにおりません』とばかりに運転に集中して存在感を消してるし、私も同じだ。


空気にでもなった様に大人し〜く、存在感を消そうと徹してた……けど。


左側からの──万亀からのじっとした視線を感じてもいた。


万亀は窓の縁に器用に腕をつき、頭を手で支えながらこっちを見ている。


その姿を目の端に捉えつつ……私はたらりと一つ汗を垂らしながら、密かに身を縮こめていた。


だって……だってよ?


どう考えたって気まず過ぎでしょ、この状況。


万亀は直接言ってはこなかったけど、絶対に私が猪熊さん狙いなんだっていう大嘘話をみんなから聞いてる。


そりゃ、(猪熊さんには悪いけど)嘘は嘘のまま突き通しておけばいいんだし、万亀なんか関係ないって言えば関係ないんだけど……。


でも……。


〜この沈黙……なんか耐えられない……。


と──ずっとじっと私を見ていた万亀がそっと口を開く。


「もう気づいてると思うけど。

学校での噂話、聞いたよ。

瑠衣さん、うちの猪熊が好きなんだって?」

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