第79話
だって……私が乗り込むまでリムジンの戸を決して閉めようとしない猪熊さんの圧が、すごすぎるんだもの。
それにそもそも猪熊さんを巻き込んで、申し訳なく思わなきゃいけないのはむしろ私の方だしね……。
明日からもっと猪熊さんに迷惑かけるかもしれないしね……。
そんな事を考えながら──仕方なく、今回だけはって思いで万亀に続いてリムジンに乗り込んで、万亀が掛けた入ってすぐの席からは離れた、反対窓側の席に腰掛ける。
そこでようやく猪熊さんがリムジンの戸を閉めた。
万亀が窓を少し開けて外の女子たちに爽やかな笑顔で手を振る。
「それじゃあ皆、また明日ね」
万亀のそのたった一言に。
きゃぁああっ!!と一際大きな歓声が上がる。
私は絶対にそっちに関わらない事を決意して、万亀とは逆──自分の右側の窓だけを見つめ続けた。
ゆっくりと、外の景色が流れ始める。
こないだから私は── 一体何度『今回だけ』って言いながら、この高級車に腰を降ろしたんでしょう。
そんな事を思いながら──私は借りてきた猫の様に大人しく、その席にちんまりと座っていたのだった──。
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