第77話

……まぁ実際は侍らせてるっていうより『女子たちが勝手に万亀の周りを取り囲んでる』っていう方が正しいんでしょうけど。


「万亀……」


本当は猪熊さんの後ろにでも隠れてやり過ごしたいところだけど、そーしたところで何もやり過ごせない事は誰よりも私がよぉく分かってる。


万亀はわざとらしく──っていう風に私には見えた──肩をすくめて言う。


「昼間から仲良しだねぇ。

瑠衣さん、乗ってったら?

俺も一緒に乗らせてもらう事になるけど。

猪熊、別に構わないだろ?」


言う。


私はそれに、切実な思いで猪熊さんを見上げてふるふるふるふると小さく顔を横に振る。


今この状態で万亀と同じ車に乗って帰るなんて、冗談じゃない。


どんだけ気まずければ気が済むのよ!


猪熊さんは、たぶん私の思いはちゃんと分かってくれたはず。


分かってくれた、はずだけど。


「──はい、もちろん」


どーやら執事の身分じゃあお坊ちゃんの言葉に逆らう事は出来なかったらしい。


私が絶望し、猪熊さんが申し訳なさそうにさり気なく私から視線を逸らす中、万亀は「それじゃあ」と周りを取り囲む女子たちに向けて爽やかに口にする。

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