第76話

「いいのですが……。

幸右様が……」


どう思うか……って事よね。


うん……私が猪熊さんの立場でも確かに居づらいし接しにくいわ……。


それが分かる私は「そーですよね……」と頭を抱えそうになりながら返した。


猪熊さんも私と同じ気持ちなんでしょう、二人困りきってその場に留まっている……と。


「二人で何コソコソ話してるのかな?」


そんなフラットな声が、私の後ろから届く。


私は思わずギクッと身を縮こめた。


この一見のほほんとした声音。


だけど……何でかその声音の奥に“のほほん”ではない別の感情が見える……気がする。


それは怒りでもなければ咎める類のものでも、何でもないんだけど……。


でもだからってこの不穏そうなそうでもない様な空気感を説明する言葉を、私は持っていない。


猪熊さんもこの空気感を感じているのか……。


少し戸惑い混じりに、


「幸右様……」


私の後方へ向けて声をかける。


私は恐る恐る後ろを振り返った。


そこには案の定、万亀の姿があった。


周りにはすでに女子たちが幾人かいて、まるで万亀が女子たちをはべらせてるみたい。

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