第75話

話すなら今がチャンスだわ!


そう一瞬で判断して、私は猪熊さんをリムジンの後ろ側へ押しやる。


猪熊さんはきっと訳も分からずって感じだったんだろうけど、何にも言わず押されるままリムジンの後ろ側に回ってくれた。


私はその猪熊さんにしゃんと向かい合って──猪熊さんを見上げつつ開口一番、早口に言う。


「猪熊さん、最初に謝っておくわ。

本っ当にごめんなさい!!」


言うと──猪熊さんが目を瞬いて私を見つめる。


その何の曇りもない黒い瞳に、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、私は切羽詰まったまま今日の出来事を猪熊さんに全部話して聞かせた。


話してる間にも猪熊さんの目がちょっとずつ曇りを帯びてくる。


「そんな訳で、もしかしたら……いえ、きっと確実に、猪熊さんにも迷惑がかかるんじゃないかと思うの。

何かその首謀者?みたいになってる山野葵も『全力で応援する』とか息巻いてたし……。

だから……本っ当にごめんなさいっ!!」


バッ、と頭を下げて心から謝る。


と……猪熊さんが何とも言えない表情で「いえ、私はいいのですが……」とだけ答えた。


でも言葉とは裏腹に、歯切れは悪い。

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