4.まさか、脅すつもり?

第74話

その日はなんかもう、本当に疲れるばっかりだった。


隣の万亀には何とも言えない悲しげな目で見られるし、前の席の冬馬には「お前、万亀の執事が好きってマジかよ?」なぁんて聞かれるし。


山野葵はその噂を積極的に周りに広めてるし。


ほんと……穴があったら入りたいくらいよ。


昨日と同様に、放課後のチャイムと同時に私は一目散にパッと教室を出る。


誰かが何かの声をかけてきた様な気もしたけどどうでもいい。


廊下を渡り階段を降り、靴を履き替えて外に出ると、校門の前に黒いリムジンが止まっているのが見えた。


それに、その前にいつも通り立って万亀を待つ猪熊さんの姿も。


猪熊さんが私の姿に気がついた様にちょっと軽く会釈する。


私はそれには敢えて何も返さず──とにかく電光石火の勢いで猪熊さんの元へ駆け寄った。


その顔が、いかにも切羽詰まってたからかもしれない。


猪熊さんが珍しく気圧される様に目を瞬いた。


「猪熊さん、猪熊さん」


あせあせしながら言いつつ──私はハッとして周りの様子をチラッチラッと首を左右に向けて確認した。


どーやらまだ誰も来てないみたい。

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