第73話

皆が皆、こっちの姿を見て──だ。


私は──その異様(?)な空気の中、思わず怯んで一瞬固まった。


私があんまりのらくら歩いてきたからか、教室の中にはもう万亀も着席していたし、私より断然遅く体育館を出たはずの冬馬の姿もあった。


そしてその二人を含む皆の目線で──私はさっきの猪熊さんの話がすでにクラス中に拡散された事を知った。


あああ……終わった……。


心底そう思いながら、誰とも顔を合わせなくていい様に床を見ながら歩いて行って、大人しく自分の席に着く。


しぃんとした空気は止まらない。


すぐ隣から万亀のめちゃくちゃ悲しそうな顔がこっちを見てる。


遠く離れた斜め向こうからは山野葵が晴れ渡った青空の様ないい顔でグッと親指立ててウインクして、私に何がしかの合図を送ってくる。


心なしかクラス中の女子達の空気も良好だ。


なんでもいいから……とにかく早く、家に帰りたい……。


帰ったらすぐにお風呂に入ってさっぱりして、部屋に籠もって美味しいスイーツ食べて、思いっきりゴロゴロだらだらして過ごすんだ……。


そんな事を夢見てる間に──担任の加山先生が教室の戸を開けたのだった。

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