第71話

誰もが恋愛の事だけで頭がいっぱいって訳じゃないでしょうに。


でもそんなこと、どうせ言っても通じないんでしょうから……だから私は、ついこう答えてしまった。


「私、万亀の執事の猪熊さんって人の事が……」


好き、とまでは言ってない。


言ってないけど。


山野葵はぱぁぁっとさっきまでの『不機嫌』を捨て去って、顔を明るくして私の両手を取る。


「そうだったの!?

私全然知らなかった!

それじゃあ私たち、有馬さんの事全力で応援するね!」


ぜっ、全力で……!?


やばい……と思った時にはもう遅かった。


キンコンカンコーンと予鈴が鳴る。


山野葵は心底わくわくとうれしそうに「じゃあ後で教室で♪」と言い置いて私を残して先に教室へ向かっていってしまう。


他の取り巻き達も一緒だ。


「えっ、あの!?」


ちょっと待って!


全力で応援とかいらないから!


っていうかごめんなさい、今の話完全に勘違い、ウソだから!!


──覆水盆ふくすいぼんに返らず。


言いたかった言葉は何一つ言えないまま、私はその場に一人残されたのだった──。

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