第54話

それに校長も先生たちも、皆万亀には今日初めて会った様な態度だった。


もし学校に行ってたわけじゃないって言うんなら、制服を着てたのは何で??


思いながら問いかけた先で、猪熊さんが私の隣を私のペースに合わせながら歩きつつ、苦笑する。


「恥ずかしながら、私どもの目を掻いくぐって外へ出られてしまった様で。

明日──今日の事ですが──になれば、ごく普通の生徒のような生活は難しい。

例えば制服を着て、一人でぶらぶらと寄り道をして帰る様な事は、特に。

だからせめても、一度くらいはと思ったのでしょう」


そして運悪く、その散歩の様な帰宅の様なものの途中で不良グループに絡まれる事になった……と。


その私の思考に気づいてか気づかないでか、猪熊さんは私に優しい目を向けた。


「──昨日あなたに助けていただいた事、本当にうれしかった様ですよ。

幸右様は万亀グループ社長の一人息子ですから、様々な思惑を持って近づいてくる人も多い。

なのにあなたはどこの誰かもわからないはずの自分を、何の見返りもなく助けてくれた。

下手をすれば自分だって危ない目に遭ってしまうかもしれないのに、と」

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