第53話

「──どうやら、私の杞憂だった様です」


言ってくれる。


だけど、たとえ杞憂だったとしても私のことを心配してこうして送ってくれたって事実には変わりない。


私はにこっと笑って「でも」と一言添えた。


「心配して送ってくださってありがとうございます」


言うと猪熊さんがこちらも優しい笑みで返してくれた。


もう、ほんとイケメンなんだから。


思いつつも……私はふいにちょっとした疑問が浮かんできて、再び歩を進めながら「そういえば……」と声を上げる。


「そういえば万亀……くん、昨日は一人でここを歩いていたんですね」


よくよく考えてみれば、おかしな話ではある。


私なんかでさえ『危ないかもしれないから』って理由でこーして猪熊さんが一緒に付き添って帰り道を歩いてくれるのよ?


なのに大事な会社の跡取り息子でお坊ちゃんな万亀を一人で出歩かせるなんて。


そーいえばあの人、昨日制服を着てたけど、学校に来てたのかしら?


なんとなく、あんな見知らぬ……それも容姿の整った……生徒がほんの一時でも校内を歩いてたら噂になりそうなもんだけど。

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