第36話

「そんなまさか!

昨日偶然帰り道で行き会って、ほんの二言三言話をしただけ」


それは本当に本当の事だ。


まぁ、正しくは不良達に囲まれてた万亀をちょっとした機転で助けてあげて、まるで竜宮城のカメの如く、今朝はお礼にってリムジンに一緒に乗せてもらってきたけど、その辺の事は黙ってたって何の問題もないでしょう。


私は顔を引きつらせながらみんなに向かってはっきりと続きを口にする。


「彼女じゃなんかじゃな……」


い、とまで言いかけた、私の声に丁度被せる様に。


「彼女にしたいです」


万亀が至ってにこやかに、そんな事を言う。


は?


え?


私の聞き違い?


私が思わず耳を疑いながら万亀を振り返る。


私の前の席でだんまりを決め込んで不機嫌オーラを出しまくってた冬馬もバッと万亀を振り返った。


もちろんそれだけじゃない。


その場にいたみんなが、きょとんとして口をつぐむ。


そんな周りを見てるのか、見てないのか……。


万亀は改めて真っ直ぐに私の目を見て、にこっと笑って(おそらくは)さっきと同じ事を口にする。


「彼女に、したいです」


瞬間──唖然としたのは私だけじゃなかった。

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