第74話

俺がくじけた心のまま「へーい」だか何だか、もごもご口の中だけで返事すると「入るぞ」とダルの声がする。


そして、戸が開いた。


俺が目だけを動かしてそっちを見る……と、ダルの手にはこれまたきれいなピンクの花が数本、透明な包みにくるまれて収まっていた。


俺は、かすれ声で言う。


「……その花、ダルとかラビーンの奴からだったら受け取らねーぞ……。

俺は、かわいー女の子からしか花は受け取らねー主義だ」


もしくはかわいー女の子に花をプレゼントする側か。


俺の言葉にダルが軽く目をしばたいて俺の方を見た。


「起きてたのか」


言ってくる。


どーやらさっき もごもご返事したのは聞こえてなかったらしい。


ダルは──とにもかくにも呆れた様に俺を見た。


「残念ながらこの花の贈り主は私でもラビーンでもない。

クアンからだ。

ラビーンの分はそこに飾ってあるがな」


呆れ顔でダルが言うのに──…俺は げぇ、と顔をしかめた。


「……どっちにしろヤローからじゃねぇかよ…」


思わずグチってっと、ダルが花の包みを剥がしてサイドテーブルの花束に合わせて花瓶に花を活ける。


そうしながら「どうやら軽口をきけるくらいには元気なようだな」と言ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る