第70話

◆◆◆◆◆


気がつくと俺は、あの“若奥様の部屋”のベッドの上に横たわっていた。


天井が、ぐわんぐわん歪む。


目を覚ましたとたんに鼻を突いたのは、あの時の犬カバの、強烈にくさい臭いだ。


……うえ。このまま吐いちまいそーだ。


この臭いには、覚えがあった。


見世物屋の店主が漂わせてた、あの便所と生ゴミを会わせたよーな嫌な臭い。


その、強烈版だ。


俺の脳裏に、この依頼をギルドで請けてた時のラビーンの言葉が蘇った。


『おいおいマスター。

この動物、確か──』


『リアちゃん、くれぐれも気をつけてなぁ』


ありゃ、こーゆー意味だったのか……?


だったらもったいぶらずに最初からちゃんと言っとけってんだよ。


あー……気持ち悪い。


首を少し動かしただけでももう吐きそーだぜ。


「──目が覚めたのか?」


頭の上から、声がかかる。


俺は薄目を開けたまま、声のする方を──ダルを見た。


こないだの店主の時と同じ様に、ダルがわずかに呼吸を忍んでこっちを見てるのが分かる。


ダルなりに気を遣ってんのか、嫌な顔はしてねーし、多少は心配の色すら見えるが、情けねぇったらありゃしねぇ。


俺は返事をせずにそのまま再び目を閉じよーとして……ある、驚くべき物体がダルに抱えられてるのに気づき、思わずバッとベッドから起き上がった。

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