第67話

……と、一歩踏み出した拍子に。


グイッと後ろから、ダルが俺の服の裾を引っ張ってきた。


「リッシュ、」


短く鋭く、注意を促すような小さな声でダルが言うのに、俺はいぶかしみながらそっちを振り返った。


ダルが目線だけで通りの向こう側……ある一軒の古びた建物の隅を見る。


つられて俺がそっちを見ると。


ピンク色の、小さな物体の一部が建物の隅に見えた。


隠れてるつもりなんだろう、小さな丸い青い目が、半分は建物の影に、もう半分は建物の外にはみ出してやがる。


丁度、子犬くれぇの大きさだ。


その視線の先には俺やダル……ってより……


──ミルク皿、見てんな。


けど、動く気配はねぇ。


俺たちを警戒してんだろう。


俺は奴を驚かせない様 最小限の動きで肩をすくめながら、こっちも小声のまま口を開く。


「──どーやら向こうも腹ペコらしいぜ」


ダルは何も言わねえ。


が、もちろん分かっちゃいるんだろう、無言のまま目配せで、静かにこの場を動こうと指示を出してきた。


一旦引いて、犬カバがミルクに夢中で食いついた所を、後ろから回り込んで一気に捕獲!


そんなトコだろう。


──これで5万ハーツか。


足にマメを作ったりして苦労したが、まあまあ楽な仕事だったぜ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る